境界位置 と 座標値


    高岡町基準点設置作業報告の第17章として



準拠点の定義


   愛媛会における準拠点の定義をもう一度振り返ってみる。
   引照点方式とは境界を特定する方法である。


   引照点とはコンクリート構造物等の不動標識のことを言うが、愛媛会では引照
  する不動標識(構造物)の場所に鋲を設置して1点に特定出来るものを準拠点と
  定義して、その準拠点を使用して境界を特定している。


   境界位置を特定するとは、原則的には準拠点にTSを据え付け、角度と距離に
  より境界を明示することになる。


   したがって準拠点に実際に器械を据えることの出来なければ、その意義はや
  や薄れてしまう。


地積測量図への境界記載方法と境界位置の確認


   地積測量図には境界の座標値が記載されている。
   愛媛会においては原則全点不動標識の指導が行われ、止むを得ない場合に
  準拠点から境界を特定する準拠点方式が採用されている。


   現実には大部分の会員が境界には不動標識を設置して、なおかつ準拠点で
  境界を確定している。


   ここで境界位置と境界標識そして準拠点の関係を改めて考えてみると
    @ 現地の境界標識のある位置がそのまま境界である場合。
    A 本来の境界の位置には境界標識を設置出来ず、境界標識を設置してい
      ない場合。
    B 現地の境界を示す構造物に隅切り等があり、本来の境界位置に物理的
      には境界標識を設置出来ないが、境界明示の意味合いから、やや控えた
      位置に止む無く境界標識を設置している場合。

    この3通りが考えられる。

   境界標識のある位置と準拠点による表示位置が一致していれば完璧である。
   多少のズレがあっても誰もが納得出来れば問題ない。


   しかし、境界標識が設置出来ず、準拠点から境界を復元した場合、本来の境
  界位置と相違する位置が表示される場合は問題となる。


   境界標識と準拠点からの復元位置との関係が最初から相違している場合では
  地積測量図に境界を示す「点の記」なりで明示しておく方法も考えられるが、そ
  れでも後日問題となる可能性がある。


   「現地を見れば直ぐに解るだろう」とか、「自分が事後も依頼を受けるのだから
  自分さえ解っておけば良い」という調査士の立場での安易な考えで処理してはな
  らない。


   これは境界標識を設置した調査士本人にしか解らない問題でもある。
   境界と思われる場所に、調査士が設置した境界標識がある場合はほとんどの
  人が境界標識の位置は正しいものと思うだろう。


   境界標識を設置した調査士本人ならば簡単に判断できることでも、真実の境
  界を他人が判断するには難しい問題になる。


   このように原因がはっきりしている場合もあるが境界標識の位置と準拠点の
  表示する位置が一致していたつもりでも、相違する場合がある。


   その相違が2o、3oならば測量をした調査士にとっても同一点として扱えるだ
  ろうが、これが1pさらに2pならどう考えるのか。


   境界位置の場所により許される範囲の幅について判断が分かれ、迷うことにな
  る。どの程度で一致していると言えるのか、誤差であると納得できるのか。
   更には境界に対して準拠点自体が正確なものであったのかどうか。
   境界と準拠点について、いずれが正しいのか循環論法のようにも思える。


   境界と準拠点については直接的な関係である。
   準拠点の意味を知る調査士ならば、後日の事も配慮して少なくとも2対回観測
  で正確性を確保しておく必要がある。


改めて測量してみると


   準拠点から境界を特定する時の誤差について考えましたが、今度は1筆地全
  部の境界点の誤差を考えてみよう。


   以前測量をした土地(以下既測量地という)について、前回使用したトラバー点
  (以下既設トラバー点という)を使用して改めて観測すると、前回の測量結果で
  ある境界の座標値(以下既測量値)と今回の測量結果の境界の座標値(以下改
  測値という)を得ることになる。


   既設トラバー点については異動した形跡はない場合、既測量値と改測値その
  もので境界位置の比較が出来ますが、本来同一点である為に同一座標値であ
  るはずが若干相違する場合がある。


   一筆地のすべての境界点の座標値が一致する場合はまずありえないでしょう。


   その結果、座標値を開いて得られる境界の点間距離や、すべての座標値を使
  用して決算される面積にも相違が生じることになる。


   このような経験は調査士なら誰でも経験しているでしょう。
   そして、この新旧二つの測量が双方とも正確あれば、その相違こそが誤差で
  ある。


   別に難しく説明する必要はないと思う。


   それでは、どちらの座標値を使用すべきなのか。
   その結果として新旧どちらの面積を使用すべきなのか。


   いずれの結果を使用しても差し支えないと思う範囲内であれば、それは調査士
  としての日常業務を行う上で自分自身が持っている誤差範囲の基準と言えます。


   その範囲が点間距離の差が2pなのか3p以内なのか、現実的には測量器械
  の精度から考えて2oなのか5oなのか、それとも思い切って1p以内とするのか
  調査士としての信用と自分自身の測量の腕に相談しながら納得のできる範囲を
  判断しなければならない。


   更には、面積の差においても1u以内なのか0.5u以内なのか。


   確認の為に何故このような誤差が生じたのか調査するには、前回の境界観測
  の水平角と水平距離のデータと今回の水平角と水平距離のデータを比較してみ
  ることである。


   そうするといろいろな問題が浮かび上がってくるだろう。


   同一の境界を同様の条件で観測している訳だから、誤差を生じた原因と思え
  る観測における小さな相違が見えてくる。


   私自身が体験したことからすれば、前回観測時に使用したTSと今回使用した
  TSが相違した為に生じたTS固有の距離測定の癖による相違。


   直接境界を観測した時に障害物があったために、ミラーを高く上げたために生
  じた傾きにより生じたと思われる相違。


   ミラーについても0プリズム(ミニプリズム)やシールがまだなかった為に、3.5
  インチのミラーをポールにつけて観測していたが境界となる壁にくっつけて観測
  してしまったために起こったポール分の相違。


   ざっと思い出しても、たちどころに過去の事例が浮かび上がる。


   改めて観測することにより、前回測量した時の記憶もよみがえってくる。
   前回の成果値を使用するのか、今回測量した成果値を使用するのか、それと
  も平均値を採用するのか。
   一部の成果のみを入れ替えるのか。
   最良の方法を模索しなければならない。


   既提出の地積測量図との兼ね合いもあり難しい問題である。
   土地家屋調査士として、筆界を扱う専門家としてこれが業務の中での誤差の
  考え方であると思う。


   地図の精度区分による誤差範囲を適用する場合はやむを得ない場合であり
  緩やかな誤差範囲の中に納まりきらない場合は明確な何等かの原因があると思
  われる。


クドイようですが


   前章では観測点と後視点に前回測量したトラバー点が異常なく、そのまま残っ
  ているとしてのものとして考えました。


   既設トラバー点が亡失している場合は、観測点を新設(以下新観測点という)
  しての観測となります。


   新観測点から境界点を観測して1筆地の成果が得られます。
   その時に既設準拠点や残っている既設観測点も観測しておきます。


   境界点間の点間距離や面積そして形状から、前回の成果との比較はできるこ
  とになります。


   しかし、新観測点から観測している為に同一境界点であっても直接的には座
  標値の比較はできません。


   新観測点とは座標原点が相違しますので座標系は一致しないことになります。


   前章と同様に細かい調査を行おうとする場合、座標値での比較をしたい場合ど
  うするのだろうか。


   よく利用されている方法として、既測量点と改測量点の内で条件の良いものを
  選んで一斉にどちらかの座標系に変換する方法があります。


   これで座標系を統一することが出来、直接座標値での比較が出来ることになり
  ます。
   しかし、この方法は大量のデータを一括で変換する方法であり便利な方法なの
  ですが、一筆地の境界を扱う繊細で細かい内容を調査する調査士には不向きだ
  と思います。


   前章と同様の方法になるのですが、既測量点のうち条件の良い準拠点なり境
  界点があれば、それぞれを観測点と後視点に設定してその座標値を使用して
  他の境界点との関係について逆トラバース計算により、水平角・水平距離を計算
  します。


   その後、その観測点と後視点とした点に今回新観測点から観測した座標値を
  与えます。
   そこへ既測量値の逆トラバース計算で得られた水平角・水平距離のデータを
  使用して再計算を行います。


   前章の状態よりもやや精度は悪くなりますが、同一座標系での座標値となり
  座標値での比較が可能となります。


   ただし、この場合に使用する2点については、実際の観測と同様になるように
  条件の良いものを選ぶ必要があり、それは前回の測量の状況を想定しながらの
  作業になり、過去の経験から得られる調査士の高度な専門性が要求されます。


任意座標での測量と街区基準点からの測量


   新たに街区基準点を使用して公共測量に準じた測量(以下公共座標での測量
  という)と前回任意座標で測量したものの場合も同様に考えれば良いでしょう。


   任意座標で測量されたものと、今回街区基準点を使用して公共座標で測量さ
  れたものについての比較は、観測された一筆地の形状・面積や境界間の点間距
  離により比較されることになる。


   この点間距離での比較で、その相違が2p以内なのか1p、5oそして2oま
  でなのか先ほどと同様の判断になります。


   面積比較においても1u以内なのか、0.5u以内なのか。


   ここで、1つの観測点からすべての境界点が観測できる場合については、任意
  座標での成果と公共座標での測量成果について、境界の点間距離と面積の相
  違は公共座標にしたからではなく、同じ現場を2回測量したところ測量結果が少
  し相違したという単純な測量誤差である。


   現実に、前章で説明したように今回の観測点T1と後視点T2が前回と同一のも
  のを使用したのであれば前回の境界を観測した水平角・水平距離を使用して再
  計算してみれば、同一境界点について改測値と再計算値との単純な座標値比較
  となるはずである。


   パソコンに前回の測量データが残っていれば、単純に観測点と後視点の座標
  値を今回の公共座標値に入れ替えれば簡単に計算できることになる。


きちんとした測量


   「きちんとした測量をしているのであれば任意座標であろうと、公共座標であろ
  うと変わりない。」と発言される方もある。


   その発言者は更に、任意座標と公共座標の測量とでは同一点を使用している
  のにトラバー点(基準点)T1、T2同士の点間距離が公共座標にすることで補正
  の分だけ相違してくるので誤差が生じるとの発言もされる。


   その具体的な内容は、公共座標で基準点となった2点T1、T2と任意座標で使
  用していた2点T1、T2では、同一の点を使用して異動がないものであっても、任
  意座標と公共座標では、その計算方法や観測方法の違いにより、T1、T2の座
  標値を開いた時の点間距離が相違する。


   その点間距離の相違により歪みが生じ、結果的に測量成果による境界間の点
  間距離や1筆地の面積が相違することになるという意見のようである。


   具体的にはトラバー点(基準点)T1、T2について前回と同一点を使用していな
  がら、T1、T2の任意座標時と公共座標時の座標値を開いた場合、その点間距
  離が相違する。


   観測点T1から後視点をT2として境界A1、A2、A3、・・、Anを観測 、その後
  観測点を移動して観測点をT2、後視点をT1として境界B1、B2、B3、・・、Bnを
  観測する。


   これを任意座標でも公共座標での測量でも同様に実施した場合、観測点の点
  間距離の歪みの分だけ座標値は相違することになる。


   したがって、境界点A同士、境界点B同士の点間距離なら問題ないが、 観測
  点の異なる境界点Aと境界点Bとを組み合わせた時の点間距離については観測
  点の点間距離の歪みの分だけ相違することになる。


   1筆地の形状自体もその分だけ縮小・拡大のかかったものになり、面積も変わ
  るという理屈である。


   しかし、この点間距離の相違は公共座標に必要な傾斜補正、投影補正、縮尺
  補正等を行わず、いきなり水平距離での計算による結果生じたものである。


   観測点間の距離についても4級基準点に準じた適正な距離間隔であれば、変
  な心配で悩む必要はないだろうし、このような任意座標による測量がきちんとし
  た測量(正しい測量)と言えるのだろうか。


   基準点間の距離についても、1筆地を観測するための4級基準点に準じたもの
  であれば、先ほどの基準点間の補正による相違も頭の中で理屈をこねまわした
  結果の危具だということが理解できる。

   正しい測量結果を優先させる勇気を持ちたいものだ。


街区基準点を使用した場合の測量比較


   それでは、街区基準点を使用して測量されたもの同士の場合の比較について
  はどうなるのだろうか。
   平成20年4月から街区基準点の使用が義務付けられ、隣接する土地をそれぞ
  れの調査士が測量することになった。


   ここでは任意座標での測量ではなく、街区基準点を使用した公共座標による
  測量が前提である。
   実質的にも1点1座標値が要求される。


   地図作成が究極の目的のため街区基準点を使用して高精度の測量を行うが
  故に、境界に対しても単純な座標値での比較をすることにより、その測量の成否
  が問われてくるようになる。


   これはやむを得ないことだろう。
   単純比較をするにしても、その相違が2pなのか、1p、5o、そして2oなの
  か、おのずと絞り込まれてくるだろう。


   当然、座標値の単純比較をするためには、街区多角点や街区三角点を与点と
  して正しい方法で測量された基準点から観測するということが前提になる。


   正しい方法により、正確かつ高精度の測量結果同士による座標値比較である
  必要がある。


   先行した調査士の成果座標値が優先されるのではなく、正しい方法で高精度
  であることが、後発の調査士の測量により専門家の考える誤差範囲と確認され
  て始めて優先されるのである。


   街区基準点が設置され、その基準点により適切に囲まれている範囲において
  高精度だからといっていきなり電子基準点のみを使用した1級基準点相当の点
  を設置したとしても、その範囲には既に既設の基準点により作成された決め細
  やかな座標系が作られている。


   高精度だから間違いないという発想ではその座標系の形態を破壊してしまうこ
  とになりかねない。


   法務局の要求する街区基準点を利用した測量ということで、街区基準点から
  の開放2点での測量はどうなのだろうか。


   街区多角点を与点として開放トラバース測量による2点で申請地を測るための
  観測点を設置したような場合は、自分自身の測量の精度も解らないものを非常
  に精度の良い場所に放り込む事になる。


   その結果、自分自身の観測結果(観測の荒さや理解不足)がそのまま相違(誤
  差ではありません)となって現れる。


   恐ろしい事に、作業当時観測者自身にはその相違は解らない。


   隣接地を他人が観測し、確認した時に現実となって現れる。


   当然のように、新たに作業規程に準拠した測量を行った調査士は不適切な処
  理を行った観測結果に対して自分の観測結果を調整する必要は無いだろうし
  行うべきでは無い。


   手抜きの方法で作成された基準点もどきでは何ら比較の対象にさえならない。


   やはり、この規程は特殊な事例の為の例外規程である。


   土地家屋調査士は専門性をもった職種であるという誇りを忘れてはならない。


準拠点と境界標識の必要性


   ここで、準拠点の話に戻ることにする。
   公共座標で測量されているから、境界の明示方法として準拠点や境界標識は
  不要なのだと思われるかもしれない。
   境界位置の特定の為に公共座標でほとんど特定出来るが、本当の位置特定
  については、更に準拠点や不動標識で表示すべきである。


   私自身の経験では、基準点に囲まれた2〜300m四方の範囲の中で、囲んだ
  基準点を与点として公共座標による測量により、境界点は500円玉程度の範囲
  にまで特定できる。


   更に準拠点があれば、境界との関係から50円玉の穴程度の誤差で境界は特
  定出来ます。


   そしてその50円玉の穴の中に境界標識の境界を示す印があるとしたら、そこ
  はまぎれもなく境界、いえ筆界であろう。


   準拠点と公共座標、どちらが先という訳でもなく、両方を使用することにより相
  乗効果で調査士業務の信頼性を更に高めることになる。


高岡町14条地図基準点設置から思うこと


   今回、高岡町地区法14条地図作成のために、我々は基準点設置に従事した。


   境界点については後続の1筆地作業に譲ることにはなるのだが、精度の良い
  地図、しかも筆界を表示している地図、後日の紛争なく復元できる地図を目指し
  て作業を行った。


   全体のバランスを考えながら、精度の良いように。
   一筆地観測のやりやすいように。
   網の形を考えた。
   これらを高岡地区という場所で全体的に統一して実施した。


   しかし、街区基準点が設置された地区については、個々の調査士が街区基準
  点を利用し4級基準点相当の図根多角点を設置して、依頼のあった土地を地図
  の中に自分の手ではめ込むのだ、つまりジグソーパズルに一つピースをはめ込
  んでいくのである。


   そのジグソーパズルが完成できるのか、失敗に終わるのか。
   一定の基準にしたがい、間違いのない位置にあてはめることができているのか。


   街区基準点を使用して地積測量図を作成することは、不動産登記法第14条
  地図を作成しているという自覚がなければならない。


   個々の調査士達が自己の業務を積み上げて、最終的に地図を作り上げていか
  なければならない。


   それが出来てこそ筆界の専門家ある調査士の業務である。

   今、その資質が問われようとしている。

     平成21年3月                 土地家屋調査士 滝上洋之


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