三次元直交座標一考

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井上新一郎
１　尺貫法の話

　　私は学校を出て，行き先不明な時「法務局の臨時職員」をいたしました。
　思い起こせば昭和４４年の春，青春のそして不安の日々がありました。
　「任期を１日として日々これを更新する，事務補佐員に任ずる。日給６４０円を支給する」これが局長からの
　辞令でした。

　　毎日が閲覧の登記簿運びです。福島・福富・・・・間違えた登記簿を運んで，よく叱られました。
　　（市内の町名さえよく知らなかったのです）

　　１月たつと「メートル書き換え」を指導され，「換算表」を見ながら坪・反畝歩」の横にゴム印でメートル数値を
　押捺していきました。

　　何冊か進んで，課長補佐が覗き込んで言いました。「井上君　単位を間違えとるじゃないか」
　私「アラそうですか？最初のページが補佐のお手本ですが・・・」
　補佐「ありゃ，私の間違いか・・・」
　その補佐も退官して司法書士になられました。いまもご健在でしょうか。

　　メートル換算表を使った全国一律の土地面積の書き換え，今から思えばこれは間違いではないかと考えます。
　１反が３００坪で，９９１㎡と換算すると，全国の登記簿地積がおかしくなる。
　台帳面積の正しい理解，それには戦前や江戸期以来の長い日本の土地制度の歴史をひもとく必要があります。
　少なくとも土地台帳完成までの基準（法令）と実務への研究が必要でしょう。
　手元に，「土地台帳下造」という土地台帳に記入前の各土地の詳細を整理した大福帳様式の資料があります。
　（三か村　約7500筆）

　　明治初年から２０年までの，土地台帳と地図が完成する経過の研究
　これが私の課題ですが，それは尺貫法の世界そのものなのです。けれども私と同年代の司法書士は，１尺の
　長さにほとんど興味をもたないようです。

　　日本古来の度量衡である尺貫法。
　尺貫法は，「人」と「人の生活」が基準でした。
　昭和３４年メートル法が施行され，昭和４１年の改正計量法によってその使用が懲役をともなって禁止されまし
　た。（一年以下の懲役，１００万円以下の罰金，併科もあり）

　　以来５０年（たかが５０年），一般ではすっかり忘れ去られました。
　大工さんの仕事では，今もって現役の曲尺（かねじゃく）ですが，
　司法書士職も（土地家屋調査士は当然に）尺貫法と無縁ではなく，その理解が必要な職種にあるのではない
　でしょうか。

　　それは，土地の面積を判断するとき，これまでの土地制度での基準が，”尺貫法による歴史”であったから
　です。
　土地表題を見たとき「旧」と記載された面積は，「坪」または「反・畝・歩」です。
　（尺貫法の話はネット上でも書かれていますが，これからの記述は主として以下の文献に基づいています）
　　　「単位の歴史事典」小泉袈裟勝　著
　　　「ニッポンノサイズ」石川英輔　著
　　　「岡山県の算額」　山川芳一　著（自費出版）

２　尺貫法の復活

　　懲役を伴っての尺貫法の使用禁止。これに対し昭和５２年のことでしたか
　皆さんがご存知の作家（作詞家）の　永　六輔　さんが「知り合いの指物師（さしものし）が警察に引っ張られた
　のを聞いて」，敢然と尺貫法復活に挑みました。

　大工の曲尺を製造販売して「さあ逮捕してみろ」とやったそうです。
　著書に「クジラとカネ売ります計量法現行犯は訴える」もあるそうです。
　それらの運動が奏功して，現在は販売と使用がお目こぼしの状態です。
　　（尺貫法の救世主　永　六輔氏は先日　齢８３才で永眠されました）

　　ホームセンターでも，曲尺の形をした「メートル尺」は二千円弱で売っていますが，寸尺を刻んだ本来の曲尺
　は倍の値段が付いていました。
　端っこの方に小さく「３３分の１０」のマークが入り，これが政府の
　「行政指導」の結果の印のようです。

　　メートル法，計量法なんて詳しくはありませんが，冗談じゃありません。
　インチやフィートやヤードが，日本では氾濫しているでしょうが。
　なぜ，テレビの５０インチやゴルフの２００ヤードが大手を振って，尺や匁がいけないの？！
　古いから？　不便だから？　いまどき「かっこ悪い？」
　古くもないし，不便でもないでしょう。
　日本人にとって無くてはならない基準の尺度でしょう？（↑語尾上げる）
　なぜ，日本政府は罰則まで定めてこれを禁じるの？（↑同・・・）

　　私は，戦後政府の誤りの第一に「尺貫法の禁止」を挙げます。
　日本人は針が右へ振ると，振り切るまで走っていく習性があり，
　中庸は考えられない民族なのでしょう。
　江戸や明治の尺貫法は，暗い過去の歴史上の産物（基準）であって使用するのも“はばかられる”のでしょうか。

３　度量衡

　　度量衡は，量を測る単位をいいます。

　　度は長さ，量は体積，衡は質量（重さ）を意味します。
　国際的な度量衡は，各国がメートル法を採用し，国際メートル条約を批准しています。
　近代日本も明治１８年これに加入しました。

　大日本帝国憲法の公布より，土地台帳規則制定（いずれも明治２２年）より先んじて，先進国家の基準を採用
　したのは，ひとえに世界の国家間に混じり先進国家と比肩すべく，また１年でも早く安政の不平等条約の解消
　を目指した明治政府と政治家の意識の表明であったことだと考えます。

　　尺貫法での表し方の単位は，長さが，尺（３０．３ｃｍ），寸（３.０３ｃｍ），間（６尺＝１．８２ｍ）等。
　広さは，１坪（６尺平方）１畝（３０坪・歩）１反（３００歩）
　重さは，１匁（３．７５ｇ）一貫目（３．７５ｋｇ）等です。

　小学生のころ，否今でも日ごろ使う物差しは竹製（？）の３０ｃｍ（約一尺）定規です。
　（今は，流行りませんか？そういえば最近の小学生のランドセルから，竹の定規は覗いていませんね）

　　長さの基準の１ｍは，単位時間に光の進む距離で決められましたが，
　質量（重さ）は，今もって各国にあるキログラム原器が基準です。

　国際キログラム原器は，メートル法提唱のフランスにあります。
　日本キログラム原器は，筑波に保管され数年に一度国際原器と比較調整がなされます。

４　メートル法

　　メートルという度量衡の基準を提唱したのはフランスです。

　　革命が終わった１７９０年，物理学者のラプラスによって提起されました。大なる（不変の？）地球の円周から
　その４０００万分の１を１メートルと定めました。パリを通る子午線に沿って仏ダンケルクとスペインのバルセロ
　ナ間を三角測量したそうです。

　　現代の精密測量による検証で，北極－赤道間換算で２キロ程度の誤差しかなかったというのですからたいし
　たものだと思います。
　　（当時としては，ですよネ。今はＶＬＢＩ測量ですか）

　　１７９９年（寛政１１年）１ｍにあわせた白金の基準ものさしを作製しました。
　メートル法は，国際間の度量衡を統一的に規定する素晴らしい基準です。
　現在の１ｍは，光が約３億分の１秒の間に進む距離と規定されています。
　　（1cm立方が1ccであり1g，1Lは1000ccであり1kgなどは皆さんよくご存知ですからメートル法の話は省略です）

　　フランスの物理学者ラプラスの名は，日本の「和算学者」の項でまた出てきます。
　ちなみにアメリカでは，今でもヤードポンドです。
　１ヤードは３フィートで，１フットは１２インチですか。
　　（ややこしいですよね）

　　１インチは２．５４ｃｍです。
　西部劇で有名なコルト４５（ピースメーカー，４５口径）は，１インチの１００分の４５の直径の弾が飛んでくる鉄砲
　ということです。

　　旅行者は，アメリカとカナダの国境を越えるたびに頭が混乱するそうです。
　実はヤードポンドと尺貫法はよく似ています。

５　「尺」

　　尺は，支那朝鮮と日本を通じての東洋単位系の基本です。

　　尺貫法は日本独自の単位であり，中国の単位は尺斤法と呼ぶそうです。もっとも尺貫法の呼び名は，明治の
　メートル法に対抗して名付けられたともいいます。

　　長さの単位は，その時々の為政者が決める「公定尺」と建築用の「曲尺（かねじゃく）」との二つの流れがあり
　ます。
　文字の形にも表現されるように，尺は始め「手のひらを広げた親指から中指までの長さ」，約１８ｃｍが最初でし
　た。
　周代を過ぎる頃は２３ｃｍ位となり，隋代には２４～５ｃｍ程に延伸したといいます。
　曲尺は，周代に建築用として現れ，ほぼ現行の尺と同寸だそうです。時の名工魯班（ろはん）が曲尺を開発した
　ともいわれ，曲尺の裏目の目盛りを「魯班尺」ともいうそうです。

　　周代といえば，ＢＣ１０００年頃からですから，少々の長さの異同はあっても３０００年続いた尺度，ということに
　なりましょう。

　　他方の、時の政府が定める「公定尺」である基準は，隋の時代には大小二尺制になったそうです。
　唐代に引き継がれ，日本でも大宝令（７０１年）に採用されました。
　日本では，律令以前は唐の大尺の１．２尺が１尺にあたる高麗尺（こまじゃく）が量地（土地の測量）に使用され
　ました。

　　大宝令の前の時代の土地を測る尺度ですから，これを「令前田尺」と呼びます。高麗尺の５尺（１間）は，曲尺
　の６尺（１間）と約同寸ですから，いずれの基準からみても１歩（坪）の広さは変わらないことになります。

　　そのころ裁縫に使用される鯨尺が出現し，高麗尺１寸（曲尺１．２寸）を最初の基準とし，元禄頃にかけて伸び
　曲尺の１．２５倍が鯨尺の１寸となりました。

　　してみますと，大化の改新からの「条理地割」は，高麗尺５尺で行われ，これが曲尺６尺と整合するが故に
　現在現地に残っている６０間（１０９ｍ）四方の「坪」（一の坪・二の坪のような小字（こあざ）名の基準です）がこれ
　また整合するわけでしょうか。

　　尺の長さは，精密には伊能忠敬が日本を測量するにあたり，京の竹尺・大阪の鉄尺といわれた，２種類の尺
　を統一したときから，現在の１尺が決定されたそうです。

６　曲　尺（指矩さしがね）

　　曲尺には，直角の小さい方の目盛りを右に置いて計る通常の尺寸の目盛り（表目）と，反対に裏返して計る
　裏目があります。裏目のことを魯班尺ともいうそうです。

　　裏目の一寸は表目の１．４１４倍の目盛りが打ってあります。
　裏目で材木の丸太の直径を測れば，表目に読み替えた寸法の四角い材木が切り出せます。
　つまり裏目の寸法は表目の√２の比率の目盛りです。

　　いま仮に一辺が１尺の柱が必要とします。直径何尺の材木を削れば（用意すれば）良いか，
　一辺が１尺の柱の対角線の距離を求めてその直径の材木を準備します。
　√（１+１）＝１．４１４尺の材木（丸太）を求めればよいということですが，裏目の１尺が１．４１４尺で目盛っていま
　すから，必要な材木の直径が直ぐわかるということです。計算機を使わなくともピタゴラスの定理が現場で計算
　できます。

　　他に勾配を出すタンゼント，円周率等の計算が曲尺を使って屋根の上で出来るとされ，宮大工の世界では
　それらを駆使した中世の建築（社寺の建物）が最高の物とされているようです。

　　時の為政者に左右される「公定尺」と相違して，建築の世界では大工の棟梁が代々弟子に伝える長さの単位
　ですから，各時代を通じてほとんどその長さを変える必要がありません。

　　大工の世界では，曲尺といわず指矩（さしがね）といいます。
　規矩（きく）術の矩ですね，一方の「規」はブンマワシ（コンパス）をいいます。
　辞書には，明治７年種々の１尺の長さの折衷をとって３３分の１０メートルを尺の単位とした。（折衷尺）とありま
　すが，

　　折衷尺の項では「享保尺と又四郎尺とを平均した長さの尺」とありかつ，「伊能忠敬が全国測量を行うとき用
　尺の選定に迷いこの（折衷）尺を用いた」とありますので，どちらも同じ長さといえます。

７　算　額

　　ちょっと聞きなれない「算額」から，少し和算の項に入ります。

　　日本での和算学の発展の歴史には詳しくありません。
　和算については，各地に現在も「和算研究会」等と称する集まりがあり，皆熱心に和算による「解」を現在の
　数学で解く研究をしています。

　　岡山では「山陽和算研究会」があり，県立総社高校にも「和算クラブ」で，それぞれに研究をしているそうです。
　　（各地にあると思います）

　　私も調査の課程で入会をしきりと勧められたのですが，昔から数学は苦手です。
　「和算そのものではなく，和算の歴史が知りたいのです」といいわけをして逃げました。

　　全国各地の鎮守の森に鎮座まします氏神様。その神社の軒などに掲げられ（奉納され）ている「算額」。
　　（田舎では，神社に毎年豊穣感謝の獅子舞を奉納している村も多く，その舞姿を軒下に掛かっている算額が
　　　見下ろしているのかもしれません）

　　この算額は，各地の和算学者が幾何を中心とした難問を解いた（解けた）感謝の報告と，自己を広報する
　あるいは他の和算集団への挑戦状の役目も含め，例題とその図を描いた，一般では意味不明な「額（奉納額）」
　です。
　（最初に見たときは忍者の連絡用の「判じ物」だろうか？と思いました。巻末に算額の例とその解題を挙げてお
　　きます）

　　北辰一刀流の千葉周作が，伊香保神社に「武道額」を揚げようとした話は司馬遼太郎の「北斗の人」ですが
　その武道額は周作を中心に弟子の名前を連ねた重厚なもので，北辰一刀流が，その地を制圧したことをも誇
　示する意味が含まれています。

８　和算学者の偉大さ

　　和算学者といってまず出てくるのが，関　孝和です。皆さんもよくご存知でしょう。
　「関は，ヨーロッパでライプニッツが行列式の概念に到達する以前に独自に同じ概念を研究していた（1683年）。
　またヤコブ・ベルヌーイに先駆けてベルヌーイ数を発見していたことも知られている。・・」（ウィキペディアから）

　　関が活躍していた元禄ころから２０－３０年後，関に次ぐと言われる久留島義太（くるしま　よしひろ）が備中
　松山（岡山県高梁市）に現れます。

　　久留島義太は，松山の水谷（みずのや）家が断絶（元禄６年）し，旗本領になるにつれ，浪人し和算学の道へ
　邁進しました。

　　享保から宝暦までの時代を中心に活躍し，享保１５年（１７３０）磐城国平藩に抱えられ，
　１７５７年（宝暦７年）に没するまでその理論の一部は西欧より先んじています。
　メートル法を提唱したラプラスより１５年も前に「５次６次行列式の展開」を行い，数学世界での「オイラーの関数」
　も同理論は義太没後３－４年後に発表されました。してみると，
　日本の数学者は「久留島の関数」と称するべきかもしれません。

　　次に挙げるべきはご存知，伊能忠敬でしょう。

　　延享２年生まれの忠敬は，満５０才で隠居し寛政７年江戸に出，幕府天文方高橋至時（よしとき）の弟子となり
　５年後の１８００年に，江戸から蝦夷に向けて第１次測量を実施します。

　　忠敬が岡山（山陽道）を測量したのは，第５次（１８０６年），第７次（１８１１年）ですが，１８１８年（文政元年）没
　した２年後「大日本沿海輿地全図」が完成します。

　　伊能図に天保国絵図等を追加し，参謀本部測量局の手によって明治２０年代に日本地図が完成し以後長く
　使用されました。
　伊能図が何らかの形で使用されたのは昭和の初期まで続いたそうで，その完成度は驚くべきものだと思います。

９　伊能忠敬

　　伊能の業績とその歴史はあまりにも有名で，多くを語らなくとも皆さんご存知でしょうが，やはり１尺の長さを
　決定したこと。次に江戸から蝦夷へ一直線に北上した測量（第一次）で，地球上の一度の距離を「２８．２里」と
　確定したことでしょう。（寛政１２年　１８００年）

　　幕府天文方の高橋至時は，最初その計算結果を疑いましたが，結局伊能の測量結果が正しいことを認めま
　した。以来，第四次測量からは，幕府御用の測量隊を組み全国の調査にあたったということです。

　　先にメートル法の項で出ましたラプラスの１ｍ決定の１７９９年（寛政１１年）と比べてください。（まったく同時期
　であることに驚かれると思います）
　地球は丸く，その円周を３６０分割して１度と称し，地球表面上の１度の距離を測定する。
　その命題とそれを求める前提の知識をいつから日本人は習得したのか，不思議な気持ちさえします。
　（八代吉宗公が行った洋書の解禁が一層それに拍車をかけたのはいうまでもありません）

　　松平定信が寛政の改革を始めた同元年から７年後，大阪の麻田剛立（ごうりゅう）和算塾から幕府天文方に
　任命されたのは，大阪定番の同心高橋至時（よしとき）と大阪の質屋業　間　重富（はざま　しげとみ）でした。
　伊能の没（文政元年）後２年余にして今に有名な伊能図「大日本沿海輿地全図」が完成しました。一度目にすれ
　ば忘れられない精緻さで描かれ彩色され，その形状は今の日本地図と変わらず，これが江戸時代に作製され
　たことに驚きを感じざるを得ません。

　　測量で言うところの大図（おおず）＝大縮尺，小図（しょうず）＝小縮尺　の語源も伊能によると考えられます。
　（後世の測量での表現方法の起源と思われます）

１０　備中和算学者の活躍

　　「和算学者の偉大さ」から続き，備中の和算学者の活躍に触れねばならないでしょう。

　手元にある「岡山県の算額」（山川芳一著）には，江戸から明治にかけて３０余名の和算学者の記録があります。

　　同著に「藤田秀齋」と題する単行本もあり，いずれも自費出版です。
　著者のお宅へ訪問し，私の勉強の話をして１冊分の実費で２冊ともいただいて帰りました。

　　先の久留島義太ら多数の和算学者の中で，土地台帳地図への影響で特筆すべきは，先の藤田秀齋と平松
　誠一（閑月）です。
　閑月（かんげつ）平松誠一の項では，「平松誠一は，明治６年小田県（備中の国・今の岡山県のおよそ西半分）
　に奉職し，地租改正の測量を実施，その後土佐に弟子８５０名を連れこれを行い，伊予・阿波・讃岐の指導を
　行った」とあります。

　※　明治１５年発行の「地租改正紀要」の愛媛県（伊予国）の部に
　「人民量地に先立ち属吏をして量法を教授せしも，実施に当たっては人民互約を以て，近県岡山，旧小田等に
　従事せし慣手者を傭使し，或いは之をして一切の事業を負担せしめり・・・」　　（旧小田県は明治８年に岡山県
　に合併）とあることもこれを首肯しうる記載です。

　　備中の国は，天領・旗本領が錯綜しその特殊な政治模様と交通の便から，商売・学術・技芸等が発達し，（白
　壁の町，倉敷が有名ですが）
　和算の分野でも伊能の測量隊に参加もし，以後幕末へむけて発展してきたのでしょう。

　地租改正の測量・製図の成果は，他の岡山県（備前）北条県（美作）と比較して刮目すべき技量の差があります。
　（すばらしい）

　　備中国　原古才（はらこさい）村の「土師嘉平（はじ　かへい）」氏も，県下のみならず土佐・阿波にまで地租改
　正を手がけた和算学者です。

　　調査士会で親しくしている会員の事務所に，当時の測量器械と共に資料・成果図が山積し，貴重な勉強部屋
　となりますが，古文書の解読は特殊な技能が必要です。

　　その事務所に去る年，徳島会の広報部長が尋ねてこられ，
　私も資料について，また土地家屋調査士の本来の調査研究すべき「法令と実務」に大いに語った覚えがあり
　幸いにも速記録として「徳島会報」に載せていただきました。

１１　２００ヤードは百間　？

　　ゴルフをする方は，パー３のコースは２００ヤード位の距離が多いのはご存知ですね。

　　約１８２メートルですか。なぜか１間の１００倍，１００間の距離と一緒です。

　　若かりし頃，洋服の生地の幅がヤードで売られていて，なぜ１ｍでないのだろうと不思議でした。

　　１ヤード（３フィート）は９１ｃｍです。３尺（間中・まなか）の距離と約同じです。

　　１フットは３０．４ｃｍですから，これまた１尺と（１mmの違い）同じ長さです。

　　１フットや１尺も単純に人の歩幅を基準としたとすると，アングロサクソンも東洋人もその１歩の幅はほとんど
　同じといえましょうか。

　　なぜ１ヤードと半間の長さが同じなのでしょう。
　ヤードポンド法も尺貫法も，人を基準とした度量衡だからなのです。
　１間は１ヤードの倍，１８２ｃｍで多くの畳の広さは１８２ｃｍ×９１ｃｍです。

　　「人間　起きて半畳，寝て１畳」（古いですね）と言われるように，たたみ１枚の広さは人の起居の基準です。
　江戸の天馬町の牢屋の定員が一人一畳なら，
　京の二条城の大広間の一畳も大名一人が座る広さの基準でしょう。

　　もっとも，タタミの広さは地域でいろいろであり混乱します。
　最も大きいのが御所間，ついで本間（ほんけん）の京間，江戸間は田舎間とも呼ばれ，たしか最も小さいのが
　中京間でしたか。
　マンションの豪華なカタログの，リビングのところに「１５Ｊ」と書かれてあれば，１５畳（タタミ１５枚分）相当の広さ
　の意味です。

１２　刀と脇差

　　日本刀は，長さとその使用目的から「刀」「脇差」「短刀」と区分されます。
　刀の長さは，湾曲していても棟の直線距離で計測します。

　　１尺までの長さの短刀，２尺未満の脇差，２尺を越える長さの刀（大刀）に分けられます。大小２本差すのは武
　士に限られますが，庶民は１本差しでも脇差しならば，お咎めはありません。
　江戸時代の侠客が刀のような立派な１本差しで大見得を切っても，刃長は２尺未満です。
　２尺に届くような長い脇差を大脇差といいます。
　　（国定忠治や大前田英五郎など芝居でお目にかかれます。芝居では「長ドス」といいますか）

　　戦闘が無くなった江戸期においては，刀は武器というより身分の象徴になりました。
　明暦の大火以降一時刀の需要が高まりましたが，以後は激減し刀鍛冶の上得意は富商にとって変わられまし
　た。
　高名（助廣や虎徹等の）な刀鍛冶の作品の多くが２尺未満の脇差に多いことがそれを物語っています。
　天下太平を謳歌した元禄時代が我が国刀剣史上衰微の極に達した刀工の最も不遇な時期であり，多くの刀工
　は廃業し，また農機具などを打つ野鍛冶へと転換を余儀なくされました。

　　刀の寸法は，曲尺での２尺が基準となっているようです。
　２尺未満であれば，商人・農民が旅の道中身を守るために差していても良かったので，私の近所の農家にも脇
　差クラスはごろごろしています。

　　士分以外が刀を差せるのは，お上から帯刀を認められた人物のみです。
　農民でも有力な大庄屋は，苗字と帯刀が認められることが多いそうです。
　戦後は日本刀を県の教育委員会に登録するようになり，長さもｃｍ表示となりました。
　２尺は６０．６ｃｍですから，６０ｃｍの脇差のはずが「刀」と登録されます。が（財）日本美術刀剣保存協会の鑑
　定書では「脇差」です。

　　話しは違いますが，一宮町のお百姓で農地が買える資格の保有下限面積は４反でした。
　メートルになってこの下限面積が４０００㎡となりました。
　４反は，４０００㎡に３６㎡ほど少ないはずが，役所が切り上げたのでしょう。（４０００㎡に少し不足した耕作面積
　の農家でしたが，親から子へ贈与もできず，けんか腰で折衝した記憶があります）
　メートル法に切り替わって種々問題の種ができました。

１３　一里は半刻の距離

　　人が歩く速さは，平均して時速約４ｋｍといわれます。

　　１里が約４ｋｍとされるのは，その時速を元に決められた訳ではありません。
　人が１時間（半刻）に歩く（歩ける）距離を１里と定めました。
　ですから，歩く場所の状態によって１里の距離が変わります。

　　１里の標準は東海道です。１里＝３６町（１町は６０間）＝約４ｋｍとなりますが，
　平坦な山陽道は，１里＝７２町＝約８kmで計算されます。

　　歩き易い道程は，人は早足で歩きます。ゆっくり歩いて宿場泊まりを重ねると，それこそ「お足」が出てしまい
　ます。
　してみますと，箱根８里は何キロになるでしょうか。

　　有名な九十九里ヶ浜の長さが，普通の４kmを基準にして換算し，昔の人の基準はいい加減なものだ。と考え
　るのはちょっと待てヨ，というふうにお考えにはなりませんか。
　地形の複雑な日本では，他に４０町里・４８町里・５０町里など街道によってさまざまな１里がありました。

　江戸幕府は１里＝３６町の布令を出し，明治政府も明治２年３６町を１里とし，同２４年の度量衡法で
　1里を３６町＝３.９２７ｋｍと定めました。

　次回から「坪」の話しに移ります。

１４　改新の詔

　「大化の改新」の詔（６４６年）其の三に曰く
　「初めて戸籍・計帳・班田収受の法を造れ，凡そ五十戸を里（さと）と為し，里毎に長（おさ）一人を置け」
　「凡そ田は長さ三十歩，広さ十二歩を段と為し，十段を町とせよ・・」と定められました。
　一段（反）は３０歩×１２歩＝３６０歩から始まり，（歩と坪は一緒ですョ）

　これは半折地割と呼ばれる土地の区割り法です。長さを６０歩，間口を
　６歩とする区割りを長地地割と呼びます。
　太閤検地からは１反が３００歩に定められました。

　　班田収受の法から条里制が採られ，整然とした６０間（１０９ｍ）四角の土地の区割り（条理地割り）が整備され
　ていった。というのが通説でありました，がその発祥の時期は少し下るのではとの説が有力だそうです。

　　岡山は，いたるところ条理制の遺構が存在します。
　特に瀬戸内地方は平野（干拓の地を除き）のほとんどが「条理遺構の地」といって良いかと思います。
　　（岡山県だけに限りません）

　　１０９ｍの正方形の形を為して，１０反歩＝１町の広さです。
　その正方形の中を短冊矩形の周囲・内部に道路・水路で囲まれた，
　１反歩が基準となりました。

　　別に耕地整理をされたのでなく，昔から正方形に区画された大きな塊の区域の中に細長い区画に畦で仕切ら
　れた個々の田が，整然と並んでいます。その大きな区画は，いろんな字名（あざな）で呼ばれますが，しばしば
　「一の坪・五の坪」等で呼ばれる地名が，またいたる所に存在します。

　　私が子供の頃，魚を獲って遊んだのは「十四川」と言います。「十四の坪」の名残でしょう。
　１町（１０９ｍ）の正方形の中を，耕作の道路・灌水のための水路が巡ります。約１０００年余の歴史を経て，今
　にその遺構が存在します。

　　当時の道水路がその区域をどのように細分していたか，今は名残から想像するしかありません。
　考古学者・歴史学者の幹線道の幅員や水路の幅員等詳しく述べた書籍に出会いません。
　尾上沖７０町歩と称される，尾上地域の空中写真があります。

　　神道山・吉備の中山を背にし，東方に矢坂山を望んでの平野です。尾上村の南端，花尻町内との境に「ギリギ
　リ古墳」と通称される「車山古墳」が明瞭にその姿を浮かび上がらせています。（地理院の空中写真です）

１５　加賀百万石の実力

　　「加賀百万石」は，皆さんよく知っています。

　　加賀の国では，お米が百万石とれるという意味です。
　　（公称・表高ですから，本当の取れ高は違います。幕末では１３５万石とも・・）

　　百万石とは，百万人の人々を一年間養うだけのお米の量です。
　つまり，一石の量のお米は，人ひとりが一年で食べる（生きていける）お米の量です。

　　１石は１０斗で１００升となります。１００升を３６０日で割ると０．２８升（約３合）です。

　　一石のお米は，一反の田からとれます。
　一反という田の広さは，昔は３６０歩（坪）でした。
　昔の一年は３６０日（通年）でしたから，一坪（１歩）の土地から一日に食べるお米が出来る計算でした。
　人は，一日にお米を三合食べます。（もちろん老若男女の平均で）

　　三合のお米がとれる土地の広さ，それが六尺平方の土地，つまり一坪の面積なのです。
　今でも，炊飯器の基準は三合（五合）ではないでしょうか。

　　一反という土地の広さは，一人が一年に食べていけるお米がとれる土地の広さです。
　一日に食べるお米の採れる広さが，時代の生産高によって古くは６尺５寸平方必要であり，（この６尺５寸平方
　を１坪とするのは，為政者の政策目的があったものと思われ，現在の理解では室町初期の嘉吉ころの李氏朝
　鮮と締結した嘉吉条約頃からといわれます）

　　太閤の時代は，生産高が上がってきたが故に６尺３寸平方を１歩（坪）とされ，江戸の新田開発では６尺平方
　を１歩とされるまでになった。と単純に考えればそうなりましょう。（１坪の広さを決定するのは，尺寸でいえば
　公定尺の世界といえましょう）

　　明治の土地整理事業にあたり，旧慣を尊重して古検・中検・新検と，その１坪の基準を三種の長さに基づくも
　のを認め，地租改正事業を実施した記録を見れば，それほど地域の慣習が強かったといえましょうか。
　　（新生明治国家の力が弱かったのです）

　　明治政府は，米を物納していた江戸時代に替えて，土地の価格を定めて初めは３％の金納制を採ろうとし
　全国の石高を調査し地価を決定しました。

　　結果，３０３４万石であったそうです。（本邦地租の沿革，有尾敬重から）
　江戸末期の人口３０００万人もそこから証明できるのかもしれません。

　ちなみに当時の人口変遷は
　　　西南戦争時（明治１０年）３５８７万人
　　　日清戦争時（明治２７年）４１１４万人
　　　日露戦争時（明治３７年）４６１３万人　だそうです。
　　　国が近代化するということは，人口の爆発的増加という結果にも現れるものです。

１６　一反は９００坪か

　　明治の土地整理事業である地租改正の手続中，大蔵省の役人の有尾敬重は，東北地方での調査で「１反が
　９００坪である」との報告を受けました。

　　基準の１反３００坪でなぜ行われないかと現地へ赴き調査した結果，報告どおりの９００坪を１反として良いと
　認めて帰ったそうです。

　　その地方は取れ高が少なく，１石のお米は９００坪なければ生産されないということだったのでしょう。
　他方，収穫高が高い近江の国などでは，３００坪無くとも１石のお米がとれるでしょう。
　そういった地域では，２５０坪で１反とする例があります。

　　近江の３郡（栗田郡・野洲郡・甲賀郡）では水野忠邦の「天保の改革」の折，幕府勘定方が検地の際，１間６尺
　竿を用いず５尺８寸竿もって実行するとされました。さらには，検地済みの農地（高請地・古地）に再検地を目論
　みました。（制度上からの掟破りです）

　　結果，３郡４万人の百姓の大一揆に発展しました。
　これにより，不当な検地を撃退することはできましたが，
　首謀者１２名は磔獄門（はりつけごくもん）となりました。

　　津の代官所から江戸までの「とうまる籠」での送りは，出発時１１名であったものが（１名は津の代官所で死亡）
　９名しか江戸の牢に辿り着けなかったそうです。それほど津での取り調べが過酷であったということです。
　同じ農業で生活する一百姓でありながら，多くの百姓と農業のため一命を賭して悪辣な検地を阻止した人々。
　（結果死罪となるのは自明のことながら）
　これを世に「天保の義民」と呼びます。
　　（昭和４１年，私が２０歳の時入手した岩波新書からの引用です）

　　戦後の国土調査で土地台帳の面積が「１反」とある土地を再測量して
　３０００㎡近くあることで，明治の測量はいい加減だ。との判断は間違いということでしょう。
　また，１反と記載ある田を，換算表に基づき９９１㎡と書き換えたのも誤りといえましょう。それは，共に戦後の
　政府が過去の土地制度と日本の歴史をまったく考慮に置かなかったことの証でもありましょう。

１７　一反３００歩

　　岡山県では１反の歩数が２５０坪や９００坪などの変わった数値は無いようです。だけれども
　１反は３００歩（坪）でその広さは同じです。・・・と言って良いかどうか・・・。
　北条県の地租改正係りの指導では，（北条県は美作の国です）
　１歩が６尺５寸平方の土地・６尺３寸の土地・６尺１分の土地と，３種類の１坪の大きさが指示されています。

　　３種の測り方はそれぞれ古検（中世室町）・中検（太閤検地から江戸初期）・新検と呼ばれます。
　三種の検地は，時の為政者が決めた「量」の定め（公定量）だと思われるのは，
　瀬戸内の条里制の遺構は１０００年余の歴史を経て現存します。

　　矩形の１反の田に，毎年百姓は見事に整然と苗を植えます。
　こんにち地味（土壌）の良いところでは８寸，砂地は６寸，山間の５寸間隔での稲株の整列は，日本人ならでは
　と感嘆します。
　（東南アジアでの田植えは，こうはいきません）
　それが日本人なのです。
　（最近植えられた苗がフラフラ蛇行しているのは，田植機での運転のまずさからです）

　　つまり毎年測量をしているわけで，江戸期の納税は村単位で請求され，それを各農家に割り振ることで全体
　の貢納石高を満たしていたことをはじめとして，村内では１戸の高持ち百姓の生産量が，何石何斗何升何合ま
　で把握されていました。

　　個人の分を納めればそれでよいかというと，そうはいきません。村全体の連帯責任ですから，病気や夜逃げ
　で少なくなった分は皆での負担となりました。

　　村内では，五人組単位での負担であり，最後は村全体の連帯責任です。
　現在，固定資産の個人持ちの土地をまとめた表を「名寄（表）」といいますが，
　江戸期にも村内の所有者別の表「名寄帳」が存在します。

　　各地の慣例により，６尺３寸の地域はその単位で丈量し，換算のうえで大蔵省に報告せよ。
　とあるとおり，１間竿や倍の２間竿等を使用しての測量であったはずです。

　　岡山県では「古地（こち）方村々は申し出の通，６尺３寸竿を用い，興除・福田両新田は最前検地の際（江戸
　の新田干拓時）用いた６尺１歩竿をもって」調査しなさいとの指示が出ています。

　　明治８年１２月の中央への報告は（換算せず）６尺３寸竿で行った結果を出しています。
　ただし「府県地租改正紀要」には換算してその面積を搭載しているとのこと。
　（「地租改正と農民闘争」・有元正雄著から）

　※「府県地租改正紀要」とは，明治１５年大蔵省発行の地租改正報告書の別冊です。全国の地租改正施行の
　　結果を実施県単位で整理製本して発行した本です。
　　（備前岡山県・備中小田県・美作北条県の各部に分けて掲載しています）

　　もっとも当初の小田県には備後６郡も含まれ，これが広島県に編入されたのは北条県（美作）が岡山県に合
　併した明治９年４月のことですから，地租改正時，広島県の東部は小田県流の精度の高い測量をしました。

１８　銭形平次の捕り物

　　江戸の捕物帖で有名な銭形平次は，犯人逮捕のため一文銭を投げて捕まえます。
　一文銭の真ん中には四角の穴があり，これに紐を通して１０００枚くくると一貫文となります。
　１貫は３．７５ｋｇですから，１匁はその１０００分の１です。

　　一文銭の重さを一匁（もんめ）といい，３．７５ｇあります。
　現代のよく似た貨幣に５円玉がありますが，ナントこの５円玉の重さも３．７５ｇです！

　　なぜ，江戸時代の１文銭と今の５円玉が同じ重さでしょうか。
　やはり，その重さが人にとって使い勝手がいいのでしょう。
　大蔵省の役人がこだわった結果かもしれません。
　５円玉を１０００枚ためると３．７５ｋｇで一貫目となります。
　世界公式の基準として、唯一真珠の重さを量る「匁　もんめ」が
　現在もなお採用されています。「御木本パール」に栄光あれ！

　　一貫目を約４ｋｇとすれば，人の体重を簡単に表せます。
　軽い体重の，特に女性は１０貫目（約４０ｋｇ），
　大きな男性は２０貫目（８０ｋｇ）です。
　中肉中背の人は１５貫目（６０ｋｇ）ですね。
　尺貫法を使うと，簡単な数字に置き換えられます。

　　話し変わって「クジラ尺」は，曲尺の１．２５倍の長さで１尺です。
　クジラ尺は高麗尺（曲尺の１．２倍）に由来され，日本人の身長が伸びた元禄頃から５分伸びて今に至ったとい
　われます。

　　着物・呉服の世界では，曲尺の１．２５倍の長さが便利なのです。
　身丈・袖丈・襟幅（大小）等は，曲尺で表現するより単純な寸尺で表現できます。
　そで丈　１尺５寸　身丈　４尺１寸　えり幅（狭）１寸5分（広）３寸
　これを曲尺で表現しようとすると，細かなややこしい数値になります。ましてやｃｍでの裁縫は不便きわまりない
　ということです。

　　鯨尺とは文字通りナガスクジラなどの口中で食物を濾し分ける角質の板状のものから作製され，仕立物をす
　るとき布地に沿ってしなやかに曲がり，採寸や裁ち目を付けるのに便利なもので，またカラクリ人形の動力
　（ゼンマイの役目）にも使われる工芸材料から出来たものです。

１９　スバルのエンジン

　　世界でも特異な日本の「軽自動車」（軽四輪），

　　戦後の交通問題に対処するため，世界にない独自の規格を作りました。

　　小さなボディと強力でない排気量。
　当時の（今でも）狭い日本の道路に適した車の規格をあみだしました。
　懐かしい「スバル３６０」「ホンダN３６０」・・・
　ダイハツ・ミゼットなんてのもありましたネ。
　小さな規格と非力なエンジン。特典を与えて交通・物流の発展に資するために・・・。

　　とはいえ中途半端な３６０ccという排気量をなぜ決めたのでしょうか。
　３５０ccでも４００ccでも良いところ，

　　採用した役所が「２合」という容量にこだわった結果としか考えられません。
　尺貫法が遠ざかった証拠の当時では，規格変更の折，倍の４合（７２０cc）エンジンとはなりませんでした。
　今も尺貫法が生きていたら・・キット４合エンジンとなったでしょう。

　　もっと「軽」の馬力があがったことと悔やみます。
　　（結局６０cc足りないことになりました）
　エアコンの効きが悪いじゃありませんか！

２０　太閤の一升

　　歴史で有名な太閤検地

　　中世（室町時代）の基準を改めて，６尺３寸平方を一坪とし，１反を３００歩（坪）としました。
　同時に米の流通の基準升を「京升」と定めました。

　　歴史の本によりますと「４．９寸平方×２．７寸（深さ）」で，
　現在の１．８L（リットル）になります。

　　備前岡山藩池田家でも寛文年間に「升改め」を実施しています。
　甲斐の信玄枡は３升入りだったとか。
　以来江戸期を通じ現代まで１升の容量は変わりません。
　もちろん悪徳商人「越後屋」で使用される枡はこの限りではありません。

　　一昔まえ１升ビンに代えて２リットルビンを製造したと聞きますが，現在では見たことがありません。
　（結局は日本人の規格に合わず，流行らなかったのでしょう）

　　お酒も醤油も一升という基準が人の生活に合っているのです。
　一升酒（を飲む）の奴，とか一升飯（を喰らう）という言葉が言い習わされるのは，日本人ならではのことです。

　　ここで下手な駄洒落。

　　「春夏冬２升５合」と書いてナント読む。→（商い益々繁盛）
　　「（栗よりうまい）十三里」は皆さん良くご存知です。
　　（升の話ではありません）

２１　暦

　　尺貫法の番外に「暦」についての話を載せて一応の区切りとします。

　　縄文時代の狩猟生活から，弥生時代の農耕生活に変わった時期から，特に一年の季節の繰り返しや変わり
　目に人々は敏感になって行ったと思います。

　　いつから太陰太陽暦（旧暦）になっていったか詳しくありません。
　平安時代に中国から入った「宣明暦（せんみょうれき）」が長く使われて来ました。
　この宣明暦は４００年に１日位しかずれない優秀な暦だそうですが，８００年も経つと（江戸期に入る頃）２日の
　誤差を生じ，日食を予告しても役に立たず，その日は御所を布で覆い，日食の闇から隠す（守る）役目が果たせ
　ません。（幕府天文方は腹切りものでしょうか）

　　元禄を前にして安井算哲が編纂した「貞享暦」の成果により彼は幕府天文方となりました。
　そのわが国独自の貞享暦も改正の余地があり，その後宝暦・寛政・天保暦と改正を重ね発達し，外国の太陰
　太陽暦と比べても遜色しなくなりました。

　「１９年７閏法（ナナジュンポウ）」ともいわれ，１９年間に７度「閏（うるう）月」が挿入され，通年は１２ヶ月３６０日
　弱のところ，１年１３ヶ月として月の満ち欠けと季節をあわせました。よく出て来る「慶応４年閏（うるう）４月に政
　体書」が発布され，太政官制度が正式に出発したのも「うるう年」でした。太陰太陽暦は，月の運行を基準にして
　いました。

　　満月の日が月の真中で１５日となり，１５日経過した月の初めは新月（闇夜）です。（この「朔望月」では１月は
　２９日１２時間４４分程でした）ですから，旧暦の１５日は必ず満月です。

　「夜討ち朝駆け」は戦闘の基本です。農民を駆り出して兵を揃えた室町の軍隊は，農繁期は停戦します。
　謙信も信玄も戦さは農閑期に専念していました。

　　唯一農業に左右されずに軍団を動かせたのは信長でした。（戦闘専属の職業軍人です）その信長が本能寺
　で光秀に謀殺されたのは，天正１０年６月２日未明でした。
　これが半月遅れていたら，おそらく光秀は行動に移さなかったでしょう。
　なぜなら，満月では行軍の模様が周囲にバレテしまうからです。
　夜が明るい現代でも，中秋の満月（名月）の夜はまるで「夜明けの空」のようです。
　（昔の人にとっては特にそうでしょう）

　　私の好きな五言絶句にも以下のとおり，
　月の光が白く地上を照らしている風情が詠われています。

　　静夜思　　李　白
　　せいやし　　　　りはく

　　　　牀前看月光
　　　　牀前（しょうぜん）月光を看る
　　　　疑是地上霜
　　　　うたごうらくは是れ地上の霜かと
　　　　挙頭望山月
　　　　こうべを挙げては山月を望み
　　　　低頭思故郷
　　　　こうべを低たれては故郷を思う

２２　還暦

　　番外その２です（笑）。

　　日本人の寿命の変遷には詳しくありませんが，いまでも歴史・時代を６０年で一つの期間として考え語られま
　す。その一時代の括り方は，日本人が歴史を語るとき永く使われてきた「還暦」が基盤となっています。

　　「暦が還る」とは，計算の最初の年を甲子の歳とし甲の位を１０個，
　子の位を１２個使った６０年間を順番に数える年表です。
　甲・乙・丙・丁まではよくご存じです。以下　戊ボ・己キ・庚コウ・
　辛シン・壬ジン・癸キ　と続きます。

　　「子」の位は皆さん良くご存じの子丑寅卯辰巳・・・の十二支です。
　これを合わせて「十干十二支（じっかんじゅうにし）」と呼びます。
　甲の位を上位ですから「兄」，下位の位を「弟」として，「え」「と」
　とし，これに五行の「木火土金水」の考えを取り入れ，甲を「木の兄」（きのえ），乙を「木の弟」（きのと）と呼びま
　す。

　　甲子の次の年は，「乙丑」で「きのと　うし」の歳とします。
　十干の最後「癸・みずのと」十二支の最後「亥・い」癸亥の次の歳は暦が還って「還暦・甲子の歳」となります。
　最初の甲子の６１年目が再び甲子（きのえ　ね）の歳に還ります。
　西暦の無かった江戸期以前はこの暦を使って歴史を語り，時代を認識していたのです。
　甲子の歳は元号を改め新たな６０年が開始します。これを「甲子革令（かっしかくめい）」といい「甲子改元」の歳
　となります。

　　江戸時代をみると，寛永１６２４年，貞享１６８４年，延享１７４４年，文化１８０４年，元治１８６４年と各々の
　「元年」が定められました。

　　日本の全歴史を通じて６０年をひと括りとした時代の区割りから
　その６０年間の特色を定義づける。
　これが西暦の無かった日本独特の年代計算方法だったのです。

　　孝徳天皇の世に大化元年（６４５年）が定められ永く日本で使われてきた歴史を刻む時代区分の方法といわ
　れます。

　　乙巳（いっし・きのと　みの年）の変（大化の改新６４５年）
　壬申（じんしん・みずのえ　さるの年）の乱
　（大海人皇子の反乱６７２年）
　戊申（ぼしん・つちのえ　さるの年）戦争
　（近代日本の夜明け１８６８年）などは皆さん歴史の授業で有名ですから良くご存じです。

　「終わりに」

　　年代を考えるとき，日本では西暦と和暦が使われます。
　皆さんはどちらの暦でまず認識されるでしょうか

　　一見不便なような西暦と和暦の二重の存在，西暦が世界言語ならば，和暦は日本言語と言えましょう。

　　西暦と和暦との相互の変換は２５の数がキーワードです。
　主として１９００年代が変換対象の年代です。昭和元年が１９２６年でその前年，１９２５を基準に換算をします。

　　敗戦の年，昭和２０年は１９２５に２０を加えて１９４５年であると。
　ついでに１９・・年の１９を省いて，６０年安保の年は
　２５を引いて昭和３５年の出来事だ。昭和４０年は４０＋２５で１９６５年だというように
　西暦の末尾から２５を引くと昭和○年に，昭和○年に２５を加えて
　１９００年代の西暦にと計算すればよいということです。

　　ちなみに私は、司法書士昭和４５年生、今年は昭和９１年ですから
　ちょうど折り返しの年といえましょうか　笑

　　慶応４年９月８日に発せられた詔で明治と改元するとともに一世一元が定められました。江戸期以前は「甲子
　改元」以外は随意に改元が行われていたので時代認識の前後が分かりにくいと感じます。

　　日本では皇紀も使われ，今年２０１６年は６６０年加えて
　皇紀２６７６年になります。

　　初代神武天皇が即位された紀元前６６０年を皇紀元年としての計算方法で，有名なゼロ戦（零式艦上戦闘機）
　が採用されたのは皇紀２６００年（西暦１９４０年・昭和１５年）のことでした。ちなみに明治２２年２月１１日は，大
　日本帝国憲法発布の日ですが，神武天皇即位の２月１１日に合わせたものでこれを「紀元節」と呼びました。

　　現在では「建国記念の日」として国民の祝日とされています。

　　いかがでしたでしょうか，尺貫法の話をしていきますと自然と話題が歴史を中心として廻ります。

　　神話の時代から続いてきた日本人の文化（体質・国柄）が，戦闘の無い江戸期２６５年を通じて完成していく
　歴史に沿っての話題が多くの内容となります。

　　巷間流布されているように，江戸時代は厳しい身分制度が敷かれ支配階級の武士のみに自由や権利があり
　農村は喰うや喰わずの悲惨な社会であったとすれば，明治からの急速な近代化は想像だにできないでしょう。

　　藩に所属し統治されていた民衆（武士も同じ）が，日本国民という意識の元に国家に参画することで，国際間
　に比肩しうる国力を短期間に備えることとなりました。そこにこそ，日本人の底力を見ることが可能なような気が
　します。

　　敗戦からの日本人は「国家」との意識が断絶され，６０年を経て今日の「体たらく」となりました。サンフランシス
　コ講和条約が発効し，日本が真の主権を回復した昭和２７年４月２８日を知っている方が何人いるでしょうか。

　　戦後教育を受けてきた私は，永く自分を「戦後生まれ」と思いこんできました。講和条約発効の日までは，まだ
　戦中であることを知ったのは最近のことです。

　　歴史を「日本史」の教科書で学んできましたが，日本語を「国語」の教科書で学ぶように，日本の歴史を「国史」
　の教科書で学ぶことを文科省が認める時代が来て，初めて本来の日本人を取り戻せるように思います。

　　国の近代化に尺貫法がマイナスに作用したでしょうか，否です。メートル法は国際間の取り決めであり，尺貫
　法は国内での日本人の基準です。明治大正昭和を通じても，日本人の生活はすべて尺貫法の世界です。

　　もちろん登記も含めた諸制度も，つい昨日まで尺貫法での運営でした。
　百年余の尺貫法土地制度の集積が，現在の土地表題そのものなのです。

　　土地表題を判断し，社会経済活動での国民の権利の保護に寄与する職責の司法書士，
　尺貫法の歴史の中で尺貫法によって完成された現地を調査測量し，
　国の地籍確定への重要な役割を担う土地家屋調査士。

　　おもしろく楽しく読み進むなかで，自然と尺貫法による土地制度の変遷に身を置いていただければ幸いです。
　皆さんも是非「尺貫法」に親しんでいただきたいと思います。

　永くお聞きいただき，ありがとうございました。