平成19年10月13日第31回勉強会報告・反省編


疑惑の目

  平成19年10月13日松山地方法務局大洲支局周辺を会場にした街区基準点を使用する実務
 研修会は終了した。

 

  A班の点検計算の結果。
   1号路線の高さの閉合差10ミリ、座標値の閉合差30ミリ、閉合比1/7093。
   2号路線の高さの閉合差16ミリ、座標値の閉合差36ミリ、閉合比1/8124厳密水平網の標準
    偏差7.71秒、高低網17.48秒。

  B班の点検計算の結果。
   1号路線の高さの閉合差13ミリ、座標値の閉合差3ミリ、閉合比1/64651。
   2号路線の高さの閉合差8ミリ、座標値の閉合差6ミリ、閉合比1/16956。厳密水平網の標準
    偏差3.68秒、高低網19.86秒。

  C班の点検計算の結果。
   1号路線の高さの閉合差2ミリ、座標値の閉合差1ミリ、閉合比1/114283。
   2号路線の高さの閉合差2ミリ、座標値の閉合差3ミリ、閉合比1/32046厳密水平網の標準
    偏差2.08秒、高低網8.09秒。

  という結果であり、3班とも4級基準点測量の制限内の精度である。

  でも、迷惑おっさん「おかしい。おかしい」の連発。

  街区三角点と街区多角点を直接使用しているA班の観測結果を見て、座標の閉合差が30ミリ
 以上あることから

  「街区基準点の成果がこんなに悪いはずがない。MH1-2の座標がおかしいのじゃないか。」
 と与点のGPS観測をおこなった老眼おっさんに疑惑の目を向け、持参していたGPS観測の成果
 をチェックし始める。

  「これ、おかしかろう。」

  GPS観測記簿の中のバイアス決定比が1桁台のフロートぎりぎりの場所を見つけ出した。

  「これは、駄目よ。でも、これがそのまま街区三角点と街区多角点を結ぶ1号路線で3センチ
 の誤差になるはずはない。」

  他の2班もMH1-2を取り付け点として使用している。

  更に、GPSで同時に観測したMH1-3やMH3-3も使用しているが他の2班はいずれを結ぶ路線
 も1センチ以内の閉合差である。

  当日のA班の観測にも、ちょいと首をひねっていたが

  「GPS観測の悪さと、今日のTSの観測の結果がものの見事に結果に表れたね。」

  「後日、再測量をしてみようか。」

  結果が気になる老眼おっさん。

  「研修だから、しなくていいよ。」

  冷たく言い放つ迷惑おっさん。

  迷惑おっさんの「しなくていいよ。」は多くの場合反対の意味である、これは原因を究明してお
 けという意味なのだ。

  このまま何もしないでいると、後日「あれ、どうやった」といきなり聞かれることになる。


再測量

  三日後、老眼おっさんと補助者二人でAコースの観測を午前10時15分から開始する。

 

  移動する距離の時間的な効率から、A3の位置を出発点として、A2を後視にして観測を開始
 以後A4、MH3-1へと補助者と二人でデータコレクターを使用しながら順次観測を進めていく。

  器械高、目標高については統一せず任意高での観測である。

  A3での観測、倍角差0秒、観測差2秒、高度定数差0秒、所要時間7分
  A4での観測、倍角差1秒、観測差1秒、高度定数差6秒、所要時間5分

  MH3-1に到着し、MH3-1から400メートルほど離れた取り付け点MH1-2は、角度だけの観測で
 ある。

  ピンポールで大丈夫だろうと、補助者が車で移動しMH1-2にピンポールを立ててみるが
 本日は13日以上の上天気で400メートル以上離れ、屋根の上を通しての視通である。

  観測を開始して、TSを覗き込んでみると陽炎もひどく、ピンポールそのものが存在しているか
 どうかぼやけて良く見えない。

  MH1-2の位置でピンポールを立ててくれた補助者から携帯電話がかかる。

  「見えますか。」

  「形そのものがぼやけて見えないので、通常のポールに変更して。」

  通常の紅白の2メートルポールを立ててくれたが、ポールの形と紅白のまだら自体はわかるの
 だが、陽炎がひどい。

  それでも、何とか観測は可能だ、高度角はガードレール下にみえる、ポールの紅白の一番下
 の境目をみることにして慎重に観測。

         
                       MH1-2

  MH3-1でA4とMH1-2の2方向の観測結果は倍角差7秒、観測差3秒、高度定数差18秒、所要
 時間9分。

  MH3-1での観測は自分でも少し心配な観測なのだが、最近器械を新しく購入したので器械操
 作に慣れていない性だ、時間もかかっているのはその為だと自分に言い聞かせながらの観測
 である。
 
  ちょっと時間がかかってしまいましたが、これも途中でポールを変えたために要した時間と思
 うことにした。

  街区三角点1004Aへの観測へと移る。

  三脚を背中に、器械とデータコレクターを両手に持ちながら、250メートルほどを急いで移動す
 るが、移動に15分ほど時間がかかってしまう。

  10時57分、1004AにTSを据えつけMH1-2を後視点としてA1方向への観測である観測を開始
 する。

  MH3-1からの観測ではMH1-2に立てたポールが陽炎でよく見えなかったのだが、ここから観
 測するとMH3-1からの陽炎がうそのように良く見える。

  直線距離も200メートルほどになり大分短くなっていることもあるが、この場所からは建物も無
 く障害物がない。

  逆にポールが大きく見え、紅白の境目も明確である。

  ヘアーで挟み込むようにしての観測になる。

  1004Aからの2方向の観測結果は倍角差0秒、観測差6秒、高度定数差1秒、所要時間8分。

  これまで順調に観測が進んでいる。

  A1の場所はアスファルト舗装の道路上であり、足場も良く、1004Aから71メートル、A2まで
 66メートルの距離の2方向の何も障害の無い平坦なアスファルト舗装の上を視通する簡単な場
 所である。

  だが、観測を始めると、ミラーのくもの巣が太陽との位置関係と陽炎の強さの変わり目で瞬間
 見えたり、見えなくなったりする。

  思わずそれに反応してしまう。

  観測自体、ターゲット板の印を挟みこんで観測したり、ミラーのくもの巣を観測していたりと後
 から冷静になってみると知らず知らずに身体が反応してちょっと相違した場所を観測している。

  A1から2方向の観測結果は倍角差18秒、観測差19秒、高度定数差0秒、所要時間7分。

  観測結果に思わず唸りながら、再測を考えたのだが、結局いい加減な性格が顔を出し、

  「まぁ、いいかっ。」

  迷惑おっさんが言っていた「6、70メートルは、はずしごろの距離」を実感してしまう。


  A1での調子が悪かったので3方向の観測となるA2では、慎重に観測を行う。

  10A14方向の陽炎が気になる。

  10A14方向にピントの調節を行い、少し後ろにピントが合うと、とたんに地面が揺れている。

  交通安全の黄色い旗が風の性で、2対回目の最後になって視通を遮る。

  慌てて旗を丸めて視通を確保する。

  観測結果は何とか、倍角差4秒、観測差4秒、高度定数差12秒、所要時間7分で終了した。

  距離的に3方向とも60〜70メートルであるが、ミラーのくもの巣が明確に見えたため観測が容
 易だったのだろう。

  最後の点となった街区多角点10A14からは念のため街区三角点の1004Aまでの距離を直接
 観測しておく。

  2方向の観測結果は倍角差9秒、観測差5秒、高度定数差5秒、所要時間5分。

  午前11時42分、すべての観測が終了した。

  観測所要時間は約1時間30分であった。

  「思ったより、時間がかかったね。」補助者と話ながら、器械をしまい車で30分ほどの距離に
 ある隣町の事務所に帰る。

  観測に要した時間に幅があるのは、観測は老眼おっさんが行い、場所によりデータコレクター
 を補助者が受け持ってくれたり、自分自身が使用した為である。


計算

  昼食後、事務所でデータコレクターから、データを取り込み手簿の整理を行い、順次1号路線
 2号路線の点検計算を行う。

  1号路線の高低の閉合差は10ミリ、座標の閉合差は7ミリ、閉合比は1/30400、角度の閉合差
 1秒。

  2号路線の高低の閉合差は8ミリ、座標の閉合差は13ミリ、閉合比は1/22500、角度の閉合差
 4秒。

  更に、厳密網計算に進み水平網の標準偏差は4.97秒、高低網の標準偏差は12.61秒という結
 果であった。

  確認のため街区多角点10A14から街区三角点1004Aを直接観測した距離を球面距離にする
 と212.425m、成果値から2点間の距離を球面距離に直すと212.420mの5ミリ差であった。(これ
 は双方から高度角観測を行なっていないので正式には観測した距離と言えない。単に自分の
 観測のチェックをしただけである)

  10月13日研修でのA班の点検計算の結果は、
   1号路線の高さの閉合差10ミリ、座標値の閉合差30ミリ、閉合比1/7093。
   2号路線の高さの閉合差16ミリ,座標値の閉合差36ミリ、閉合比1/8124。厳密水平網の標準
    偏差7.71秒、高低網17.48秒である。
   4級基準点測量の制限内であるが問題は多い。


電 話

  14時には一応の結果が得られたので、迷惑おっさんに結果を報告。

  「1号路線の座標の閉合差7ミリ、2号路線は13ミリ」

  「そうやろう。7ミリかな。そのくらいのものよ。13ミリは多すぎるぜ、やっぱりGPS観測の悪い
 影響が出とるよ。」

  「街区多角点の10A14の場所は、10階建てのマンションの斜め前にあったから、GPS観測も
 一度フロートしてしまって、翌日の午前中に再観測したんよ。」

  「いや、MH1-2の観測も悪かったよ。衛星が切れ切れの状態だったから、あまり良くないと思
 うよ。」

  「カーテンを良く測って、観測計画を立てないと駄目よ。」

  実は、MH1-2、MH3-1,MH3-3については、研修前に既に電子基準点から直接GPS観測して
 世界測地系の座標を計算していたのだが、今回街区基準点を使用する実務研修に使用する
 ためにと、世界測地系に改測された四等三角点と街区三角点、街区基準点を使用して改めて
 観測を行っていた。(下記のとおり)   

    

       
                    街区多角点10A14(ポールの位置)


             
                     MH1-2(ポールの位置)


  今回研修に使用するだけだと安易に考え、衛星状況も午前9時から正午まで、午後2時から
 午後4時までの状況が良いところまでは確認しており、更に午前中の方が良いことは承知して
 いた(更に、真夜中の観測が一番衛星の状況が良いことも解っていた。)

  街区多角点10A14については、南西の方向に10階建てのマンションがあり、北側には鉄骨造
 の平屋建ての倉庫が迫っている。

  TSで観測するには支障のない場所なのだがGPS観測は通常であれば避けたい場所である。

  MH1-2の場所も写真のように西側には石垣と大きな居宅があり障害物の多い場所である。

  MH1-2は1年前の研修の時に、共通の取り付け点として利用できる場所を探し、GPS観測に
 は多少障害物があっても他から視通の聞く場所だからということで決定した場所である。

  設置当時は、2時間の観測を行っていたが、今回は1時間弱の観測であった。

  いかに、研修とはいえ、いや研修だからこそ手を抜いてしまってはいけなかった。


点 検

  現在、街区基準点の点検が調査士の手によって行われている。

  その点検は、点検をする側の知識と観測技術に裏づけされた観測結果なのだろうか。

  少なくとも街区基準点は測量の専門家が観測し、設置したものである。

  その成果を確認するためには、それ以上の技術と知識、そして謙虚さを持って確認しなけれ
 ばならない。

  さもないと天に「つば」する結果になる。

  自分の観測の稚拙さが結果に出ているものを、そのまま基準点の精度が悪いと批判しかね
 ない。

  土地家屋調査士は測量の専門家でもある。

  測量の知識と技術は日頃の測量業務により研鑽される。

  測量の基礎は基準点測量である。

  それは、多くの優秀な先人が積み重ねてきた技術であり知識である。

  何も調査士には調査士の測量があると開き直る必要は無い。

  素直に耳を傾ければ良いはずである。

  謙虚な気持ちをもって街区基準点を使用することが出来れば、おのずと街区基準点の精度
 や使い方がわかるだろう。

  街区基準点を利用しなければならないのか、活用するのか、理解できることだと思う。


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