現場
平成19年7月28日、土曜日。
西予市宇和町卯之町のJR卯之町駅裏の肱川河川敷で、基準点測量の補習を行ないました。
今まで、街区基準点を使用するため基準点測量の研修を続けてきましたが、この研修は
実務に直結したものとなる必要があり、机上で理解が出来ただけでは何にもなりません。
専門家としてお金のとれる価値のある仕事が出来ているのかが問われています。
それが土地家屋調査士の業務でもあります。
そのためには、繰り返し観測の練習を行い、その方法と計算に必要なものを頭ではなく身体
にしみ込ませ、自分の中で当たり前のことにしてしまうということが大事です。
私にとっても頭の中を整理する必要がありました。
街区基準点を使用するために、研修参加者は必死になって2対回観測を当たり前のものとし
て、更に厳密網計算を理解(使用できるように)しようとしています。
この厳密網計算も一つの計算方法です。
厳密網計算が出来るまでの、計画や観測等の過程が大切なことを私個人の中で整理できて
いるのだろうか。自分の中で明確でないものを研修に参加してくれている方たちに伝えること
が出来るのだろうか。
そんな思いもあり、自分自身のためにも基準点研修の夏休みの補習として初歩的な観測
計算に取り組んでみることにしました。
既知点3点、新点の3点での単路線での簡単な4級基準点精度の研修を考えました。
基準点研修参加者の中で募集したところ、自分は勉強が足りない、基準点測量の経験が足
りない、測量の基礎を振り返ってみたいという意欲的な方、いろいろな理由で6名の参加があ
りました。
準備
現場の、既知点は個人的に設置している登記基準点(1-93、3-108、4-6)を利用することに
して、新点は河川敷の遊歩道に設置する予定で、補習実施日の1週間前の土曜日、午前9時
に補助者と二人で現場に出かけました。
川土手のコンクリート階段部分にある1-93と3-108、そしてそれを結ぶように川土手の中腹に
1メートル幅で続くコンクリート舗装の遊歩道があります。
3-108と4-6、1-93と4-6の視通がきくことを確認して、その遊歩道に約40メートル間隔に新
点A1,A2,A3として鋲を打設します。
補習日の28日が雨天の時のための用心にと、データコレクターを使用しての観測を行いま
した。
測量に使用した機材は取り付け点4-6に1素子のミラーを使用し、観測開始から観測終了時
まで据え付けたままにしておきました。
新点の観測には1素子のミラーとピンポールプリズムを使用して、前視方向に1素子ミラーと
三脚を使用し、後視方向にはピンポールプリズムを使用するという方法にしました。
観測が終われば、そのTSの頭と前視点の整準台の頭を入れ替え、観測点にあった三脚を
新しい前視点に据付、前の視準点のミラーを移動する。
そして、観測点であった場所にピンポールプリズムを設置する。
補助者と二人で役割分担をしながら、観測を進めて行きます。
大体観測点1点にかかる所要時間は4〜50メートルの距離の2方向の観測であれば、測量
機械を移動して据付をして5分、観測に3〜5分程度になります。
今回も、その要領で観測を行い、事務所に戻った時は午前10時30分、約1時間半の所要時
間でした。
観測
7月28日補習日当日、現地から直線距離で200メートルほど離れた私の事務所に集合した
後、現地に移動。
いつものように、水平角は2対回観測、鉛直角は1対回、距離は進行方向にのみ斜距離を
2回2セットの観測であり、手簿をつけての観測です。
四人一組での観測ですが、実質的にはその中の二人が一組です。
二人一組で観測・手簿を順次交代して一路線を観測し、残りの二人はポールマンや障害を
除去する裏方に徹してもらいます。
一路線の観測が終了したら、裏方の二人が観測・手簿を行い、先に観測・手簿を行った者が
裏方になる、いつもの要領です。
観測点は出発点を3-108としてA1,A2,A3そして到着点を1-93として順次観測して行きます。
既知点の3-108と1-93からはそれぞれ取り付け点として4-6点を観測します。
人数の関係から、3-108からは1班が、A3からは2班が観測を同時に開始することにして、機
械高、プリズムの目標高を測りながら、午前9時10分には観測が始まりました。
参加者は自分の測量機材を使用しての観測となります。
A1の位置と3-108の間の視通には、ちょっとした細工(3-108の横に高さ80センチほどの木が
あるのですが、高さ5センチから10センチまでの間なら視通がきく、A1の位置はそのために決
めていました)がしてあったのですが、それに気づいて、ピンポールプリズムの高さを変えられ
た参加者もいたようです。
1巡目の2班の観測・手簿者は、研修に数回参加されている方であったため、何も問題なく
ほぼ同時に終了。
午前10時30分、やや時間がかかったかなという程度です。
だが、2順目に入ると十分余裕のあった観測間隔も、観測の不慣れな班が、慣れた班にあっ
という間に追いつかれてしまいました。
後の班が観測を休んで、前の班の観測をじっと待っている状態が続きます。
一方、観測を待たしている方は、その自覚がないようです。
これは研修ですが全体で観測を行っている場合は、他との状況も把握しておくことも
大事です。
ただ、それほどの余裕が無いのでしょう。
落ち着いて観測を行うことも大切なことなのですが、度をこしてしまうと問題です。
どの程度の時間が、2方向の4級基準点観測に必要なのか。
それを、知ることも大切になるでしょう。
手簿のチェック
予定よりも大分遅れ、午後1時になって全部の班の観測が終了しました。
測量機材を片付け、私の事務所に戻り、遅い昼食を済ませた後、手簿のチェックを行います。
1順目に観測の終わった班は既にチェックを終えい、中数も計算しています。
2順目の班のチェックを倍角差・観測差、そして鉛直角をチェックして行きます。
まずは、手簿者がチェックを入れ、観測者が検符を入れ、二重に確認していきます。
今回初めて参加している班は、少し手間取っていますが、何とか午後2時には、すべての
チェックが終了しました。
半対回と水平距離で
ここからが、今回の補習の目的です。
各自、手簿の整理が終了したので、この手簿から水平角も鉛直角も対回観測の1番最初に
観測した角度のみを使用してみます。
距離については1番最初の斜距離と、最初の鉛直角を利用してCOSで水平距離を求め、最
初の計算要素図(A)を作成しました。
この計算要素図(A)をもとに、水平距離と半対回の水平角だけで、@開放トラバース計算を
行いました。
更に、それを少し進めて、A結合トラバース計算を行ってみました。
(計算例は7月21日に観測したデータを使用しています)
計算要素図(A)
以下は水平距離と半対回の水平角だけの@開放トラバース計算です
@開放トラバース計算
以下が、水平距離と半対回の水平角で計算したA結合トラバース計算です。
A結合トラバース計算
これだけで、すごく精度が良いと安心している方が多いのではないでしょうか。
この水平距離と半対回の水平角だけで計算されている方もいるかもしれませんが、この状態
は、2対回観測を実行した場合に得られる情報のほんの一部しか利用していません。
本来、水平角の2対回観測・鉛直角の1対回観測・斜距離の2回2セットの観測、そして機械
高・視準高の計測で得られる情報を全部計算要素図(B)に書き込むと、以下のようになりま
す。
既知点は基準点ですから、少なくともX座標、Y座標、標高、ジオイド高、縮尺係数は解ってい
ます。
観測データも2対回観測をやることにより、信頼性の高い、平均された精度の良い観測値に
なります。(もっとも、平均できるような観測値でなければ意味がありませんが)
計算要素図(B)
そして、これらの値を使用することにより各種の補正計算をすることが出来ます。
鉛直角と機械高、目標高の計測により、高度角の補正をして概算標高を得る事ができます。
そうすると、どの高さで測った距離かということになり、その距離を地球楕円体上の距離
(球面距離)に換算することが出来ます。
更に、その距離は、地球を平面とみなして計算するために必要な縮尺係数を掛けてやれば
平面距離に換算することが出来ます。
このようにして、2対回観測の水平角の中数(平均値)、1対回観測の鉛直角の中数を使用し
ます。そして基準点に必要な各種の補正をした距離(平面距離)を使用してB開放トラバース
計算をします。
B補正を行った開放トラバース計算
更に、これをC結合トラバース計算してみます。
C補正を行った結合トラバース計算
ここまでくれば、通常の多角測量であれば十分かもしれません。
むやみやたらに、「みかけの精度」に振り回されることなく、「自分はこのような測量を行いま
した」と自信を持って明確に言える根拠が必要なのです。
それに、基準点という裏付けであれば一層信頼されるのではないでしょうか。
水平距離、半対回であった観測から、基準点に必要な2対回観測を行えば、観測時間自体
は4倍になるかもしれませんが、機械の移動・据付時間は同じです。
1箇所で3分程度の観測を追加するだけで自分の業務に対する信頼性の根拠を得ることが
出来るのです。
こんな説明をしても、説明に使用している観測データは「迷惑おっさん」から
「あなたの測量は、早いが粗い。それでも制限には入るのだから仕方ない。」
と諦められている私の測量データですのであまり参考にはならないかもしれません。
ちなみに、7月28日に参加された方の計算結果でもほぼ同様の結果となりました。
ここまでの計算が、午後4時には終了しました。
「少し、時間があるので、厳密網計算もやってみますか。」と投げかけると
「そうですね。やってみましょう。」とFさん。
私のノートパソコンで計算をして30分ほどで終了。
水平角4.3秒・高低角16秒の標準偏差で、あっさり片付いた。
ちなみに、私の結果は水平角1.99秒・高低角13秒00の標準偏差でした。
厳密網計算も一つの計算方法として、取り込まれさほど使用することに抵抗がなくなってきて
いるようです。
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