今治支部研修、測量競技会T
愛媛県土地家屋調査士会 今治支部測量競技会T

「いつもの研修と違って、リラックスする中にも適度な緊張感があった。」
「失敗するとチームの仲間に迷惑をかける。いつもの研修に少し遊び心を加えて、しかし
要求される技術は高度であり、計算は基礎的知識に応用力がためされた。」
(トッポ話ホームページ、トップ写真展示室より)


老眼おっさんが行く

 土曜日朝6時30分共稼ぎの古女房、本日はお休みということもあり、まだ寝ている。
 起こすと怖いのでこっそりと起きだし、食パンを口にほおばりながら西予市の自宅をでる。
 研修会の案内文には平成19年5月12日朝9時30分、今治市玉川町の玉川運動公園に集合と
の事。

 確か会場は以前今治支部の2級基準点研修の現場で、あの時は車で2時間半くらいかかっ
たはずと当時の記憶をたどりながら、時間を逆算しての出発。
 松山市まで高速道路を利用して、道後から山越えで向かうと目的地である玉川運動公園の
駐車場に集合時間より30分ほど早くついた。

 案内文には基線場のある場所に集合と書いてある。

 基線場は、公園にある建物の横にある山のコンクリート擁壁の上と、谷を隔ててテニスコート
横の山の同じようなコンクリート擁壁の上に、それぞれ100キロ以上のモルタルを使用して設
置した場所のはず・・・。

 だが、建物横の基線場に行くと誰もいないが、よく見ると周囲の雑草がきれいに刈り取ってあ
る。

 それではテニスコート横にあるもう一方の場所をみてみようと、雑草の刈り取ってある方向に
進むと、3、4人の作業服を着た人が三脚を据えて作業をしている。

 みんなより一回り太くて、汗を拭きながら作業をしているのは日下支部長だ、挨拶をしなが
ら近寄っていく。

 横には麦わら帽子をかぶり、黒い腕貫きをした公園管理者らしいおじさんが草むしりをしてい
る。この暑い中大変だなぁと思ってよく見ると迷惑おっさんではないか。

 今治支部の研修担当者達と朝早くから現地の準備の為に作業をしていたようである。
「今日は、この基線場で距離の点検を行ってから、作業をするからね。
まだ、大丈夫。痛んどらんよ。」

 と蓋をとり、コンクリート杭に設置されたステンレス鋲(従来の頭の十字を消し、改めて十字線
を細く引きなおしたもの)を見せてくれる。

「頑丈なね。松山の基線場や宇和町の基線場の蓋はぼろぼろになってしまっているのにね。」
「すごい量のモルタルを使ったし、いろいろ考えたからね。」

準 備



集  合

 そうこうしているうちにと、参加者が続々と集まってくる。
 本日は今治支部から23名、他支部からは私を含め7名、計30名の参加者ということである。

 9時30分丁度、一番研修場所に近い、Y会員の車が到着。
 参加者に「知らん場所だから、道に迷うたんじゃろ。」等、いろいろ冷やかされながらも、定刻
には全員が揃い、本日の研修予定について

   @基線場で各自の機械の距離点検
   A観測実習(山の傾斜を利用した閉合トラバース測量)
     であることの説明がある。

迷惑おっさん、一言
   まずは、この基線場を利用して持参した機械の距離測定のチェックを行う。

 参加者各自TS持参という事であり、基線場周辺には、黄色、グレー、黄緑色とりどり、国産
もあれば外国産もあり、参加者分の機械が勢ぞろい。

 私もTS持参であり、遠方から来ているとの事で今治支部会員も優先的に私を最初の検定者
としてくれた、いえ、近くにいたので押し出された。

 基線場の片方にすでに設置されている木製の三脚に機械を据付、求心をした後、相手とな
るターゲットとピンポールプリズムの鉛直角をそれぞれ1対回観測する。

 観測の手簿付けは今治支部の美人調査士真木さんが行ってくれている。

 そのせいか鼻の下の長いおっさん調査士連中が回りを取り巻く、私の機械はいつもどおり
高度定数は360度に1分ほど足らない値になってしまう。

 「ちょっと格好悪いな。」と思いながらも、知らん振りを決め込み、真木さんの方に向くと、「高
度定数の較差は大丈夫です。」とやさしい声がする、・・・、したような気がした。(私も鼻の下の
長いおっさんのなのだろうか。)

 ほっとして、距離の測定に入ろうとすると、

 2メートルほど横の位置で距離測定とは全然関係のなさそうな場所にTSを据付けていた迷惑
おっさんがいきなり

 「老眼おっさん、機械を前の方に1ミリほど移動して!。」
 「えっ。何。」
 「いや、ズレとる。」
 何のことやら、解らない、
 「どうしたん。」
 「下の鋲の十字と機械の求心がズレとるんよ。」

 どうも先ほどから、基線場のコンクリート杭のステンレス鋲の十字と距離観測をしようとしてい
る私のTSを横から自分のTSで覗いていたらしい。  

 距離観測をするTSの機械高マークの中心位置と鋲に刻まれた十字の位置が横から覗いて
縦に一致しているかどうか確認していたらしい。

 いつものことだが、他の人間が考えないことを実行してしまう○○○がいる。

 逆らえるはずもなく、修正して10回の水平距離観測を行い、その平均値は、ここの基線場の
基線長よりも1ミリほど短いものとなってしまった。

 その後、参加した会員が自分の機械を据付け、距離の観測を行い、その都度、迷惑おっさ
ん、「ズレとる。」

 基線場の鋲の十字と機械の求心が一致したのは、メーカーに機械の点検調整を依頼し、調
整を完了して送られてきた機械をそのまま開封もせず、会場に持ち込んできたAさんのTSだ
けだった。

 結局、距離の制限を越えたTSは無かったのだが、TSの移動を指示されたのは私一人であ
った。

 今度から、距離測定に来るときはTSの点検調整をしてもらってから持ってくることにしよう。 
 (業務をする前にはいつも点検しておけと、横から言われそうである。)




参加者のTSのチェックがすべて終了した時には14時近くになっていた。


測量競技会開始

 昼食を済ませ、多少のショックを引きずりながら測量競技会へと移った。「これから班分けす
るけん、みんな、くじを引いてよ。」と迷惑おっさんがうれしそうに、準備してきたくじを出す。

 くじを引くと「白1」とある。

 くじは白1から白4、赤1から赤4までの8組あり、同じくじを引いた3人が一組となる。

 観測に先立ち、測量競技会の観測内容についての説明があった。

 観測点は白1から出発して順次白6までを観測して白1に到着する。
 鉛直角観測1対回、水平観測2対回、距離測定は進行方向のみを観測するものとして斜距
離観測を2回2セットとする。

 ただし出発点となる白1(座標値X=1000.000 Y=1000.000 H=1000.000とする)では、視準
点7の白1から見た延長方向に座標値X=1200.000 Y=1000.000 H=1200.000とする仮想の
点11を想定して、これを後視点とする。

 つまり、便宜的に視準点7をそのまま後視点として視準点7、白2、白6の3方向の観測を行い
出発する。

 また、観測点白1、白3、白5から、それぞれ中心にある視準点7(設置された金具の先端部
分)について、距離測定を行わないが、水平角、鉛直角の観測を行っておくこと等の注意があ
った。

 ほぼ20メートル間隔の観測点6点の延長120メートルほどの長方形の形でトラバース計算を
行うのだか、この運動公園は山を切り崩し、盛り土をして整備されており、平坦な場所はグラン
ドや建物用地として利用されている。

 基線場のある場所は、もともとの山の傾斜地の部分にある、平坦地と山の傾斜の土留めとし
て高さ2メートルほどのコンクリート擁壁があり、その擁壁部分のコンクリートの上端部分と土
の造成部分とで3メートルほどの幅の平坦な部分があり、その位置に今治支部の基線場がつ
くられている。

 更に、その位置から25、6度ある山の急傾斜を20メートルほど上ると、また3メートル幅ほどの
平坦な場所が山の中腹に平行に続いている。

 この地形を利用して、20メートル間隔で山の下の部分に4点、上の部分に2点の観測点をつ
くり、その長方形の間ほぼ中央部分の山の傾斜部分に視準点7を設置している。

 参加者が多数のため、この観測点も2,3メートルずつズラして、赤1〜6、黄1〜6の観測点を
それぞれの観測の邪魔にならないように作成してある。

 それでも観測が近く、邪魔になることもあるのでお互いの観測の邪魔にならないようにと
白1、赤3、黄5の位置から3班が同時に観測を出発する。

  観測開始


 後の班は、とりあえず待機である。

 前視点、後視点にはターゲット板やピンポールを使用し、観測点にはTSを据付け、コンベッ
クスでそれぞれ高さを測る。

 今回参加の今治支部会員や他支部からの会員も、測量研修には慣れており、テキパキと処
理していく。

 観測手の水平角観測、鉛直角観測、距離観測、そして手簿者の手簿付けも手馴れており、
機械の据付から1観測点15分から20分程度で観測者、手簿者が入れ替わりながら進んでい
く。

 実務研修であるため、観測の障害もわざと作られており、時々公園の樹木の枝や葉っぱが
観測の邪魔をする。

 「あの枝が邪魔しとる」と観測者が言えば、他の二人がすぐさま駆け寄り、枝を押したり引い
たりして観測が開始される。

 前に進む班の観測の結果を計算している手簿者や、それを覗き込む観測者の頭や体も邪
魔をする。

 非情にも「その頭、邪魔」との声がかかる。
 頭をへし折られては大変、「ごめん」とあわてて、逃げだす。

 いたるところで、そんな光景が見られる。

 観測点4で観測を終了すると、25度を超える山の傾斜を、滑り落ちそうになるのを我慢して、
「ぜーぜー」言いながら機械を担ぎ上げる。

 もう、そこには、次の回で観測を開始する待機組みが待っている。
 「早よ、やってよ。待ちよんじゃけん。」と観測のプレッシャーをかけてくる。

 もう1時間近く、待たされているらしい。

 「再測かもしれんで。」と言いながら、
 「ここは2方向、大丈夫よ、楽勝」と思いながら観測を進めたのだが、どうも倍角差、観測差と
も自分の予想以上に出ている。

 「まずい。TSの設置の時きれいに水平になっていなかったのかな。鉛直角がきついので、そ
れが出てしまったのかな。そういえば踏み込みも足りなかったかな。再測しょうかな。」頭の中
で「再測」という文字がくるくる回っている。

競技会の最初に「倍角差30秒、観測差20秒」との制限と言われている、その中には入る値だ。

 倍角差、観測差も考慮する測量競技会だから、班のためには再測をしようか。自分の面子
のためには黙っていようか、横には待機組が見ている。

 うん、黙っておこう。(へんな見栄を張ってしまいましたが、実務では再測してます。)

 同じ班になった皆様、すいません。

 16時近くになり、白1班の観測が終了した。

 待っていましたとばかり、待機していた班が観測を始める。

 観測を終了した班は手簿の整理をし、更に観測内角を電卓を使用してチェックをする。
 観測点6点の閉合トラバースで六角形であるので、内角は720度になるはずと、計算をしてみ
ると719度59分11秒。

 「ありゃ、やばい。あまり良くない。ひょっとしてあの場所のせいだろうか。」
 と心の中では思ったのだか、黙っておくことにした。

 どうも、白1班の三人はそれぞれに、その原因の思い当たる場所があるようだ。
 後で出発した班が終了したのは18時近くになっていた。






 全員が観測を終了したので、今回の測量競技会の観測の計算結果については各班でそれ
ぞれ計算し、その結果を報告することとされた。

 計算については、まず6点の閉合トラバースの観測をおこなっているので

    @視準点7方向の仮後視点を取り付け点とした開放トラバース計算に変更して計算する
     こと。(水平距離、概算標高、球面距離、平面距離も計算する)
    A開放トラバース計算で近似座標計算を行い、更に厳密水平網計算、厳密高低網計
     算を行い、新点2から6の確定座標と確定標高を計算すること。
    B確定された座標と標高を使用し、視準点7を観測した3箇所からそれぞれに視準点7
     の座標と標高を計算の工夫をして求め、その計算された3つの値の示誤三角形が示
     す面積を計算すること。


(日下支部長・自分の観測分につき作成)




各班に渡された、計算結果報告書



今治支部測量競技会T 競技結果一覧表


 以上のような結果となりました。

 制限を越えた班もあったようです。

 どこかに観測の誤り、高さの計測間違い等があったのかもしれません。

 だが、各自観測を行い、その計算について自分達で協力しながら、厳密網計算まで行ってい
ます。(報告が記載されていない班は、観測時間がとれず観測についても他の班と合同で観測
したため、その班が報告をあげているため記載がないものです)

 測量計算について厳密網計算がすべてという訳ではありません。

 昔、測量された現場の復元等については臨機応変に対応しなければなりませんが、将来に
向かって自分の業務の責任をとるためには厳密網計算も知っておく必要があるでしょう。

 どのような計算でどのようなものが必要とされるのか、その計算過程を知り、習熟することに
より必要な知識、技術というものが徐々に理解できるのではないでしょうか。

 今後、それをどのような形で実務の中に生かしていくのかは、調査士一人一人が専門家とし
て考えなければならないことでしょう。



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