1秒読み

(1秒読みセオドライトを使う)




第1章 準 備

ちょっとした理由

 2004年12月、渡部さんと道後基準点の準備期間中の会話。

 「徳島にええ物があったんよ。」

 「なにがあったん。」

 「仙石さんのおとうさんが、ええ機械を持っておいでたんよ。」

 「また、ドイツ製の機械かな。」

 「いや。日本製の機械だけど、マイクロ読みの1秒読みセオドライトよ。」

 「本当。すごいね。」

 「これから整備に出さないといけないけど、使ってくださいということで預かっとるんよ。」

 「我々に使うことが出来るのかな。」

 「1級基準点の観測が出来るんよ。やってみたらええんよ。」

 「そしたら、寒い時期にやるかな。」

 「道後の基準点がひと段落した時期にやろうか。」

 「選点と観測、計算も1日でやるの。」

 「選点と観測はやるけど、計算はしません。まだ早い。そこまではまだ皆できんやろ。まず観
測が出来てからのことよ。」

 「そらぁ、言われるとおりやけど、とにかく観測だけでもやってみよう。場所は宇和でいい。」

 「1キロの視通が効く場所があればいいです。観測の場所は1点だけでやります。」

 「えっ、少なくとも与点からの鉛直角の観測も必要じゃないの。」

 「そこまでいきません。まず、機械を使えるかどうかが問題よ。」

 「わかった。以前みんなで2級基準点を作った場所だったら大丈夫だと思うけれど。」

 「ちょっと考えていることもあるので、宇和がいいです。下準備はしなくてもいいですよ。当日
みんなで決めるから。」


 あっさり、勉強会が決定した。


計 画
国土地理院 地図閲覧サービス(試験公開)から。
国土地理院のホームページへ。


 2005年2月14日渡部さんと電話で

 「この間、話していた研修の場所だけど、この辺りの池土手には基準点を作ってあるので
1km程度の距離も確保できると思うけれど・・。」

 予定している大体の場所の話をして、国土地理院発行の2万5千分の1の地図上に表示して
渡部氏にファックスで送付。

 研修を予定している場所は、観測点から三方向の1km程度の視通が出来る場所であるとい
う条件から、私が考えていたのは電子基準点から2kmほど離れた農耕地の中にあるため池を
利用して研修場所に考えていた。

 翌朝、事務所に来てみると渡部さんからのファックスが送られていた。

 私の考えていた場所では無く、1秒読みのセオドライトで観測を行なう場所は電子基準点の
ほとんど真横の位置で、与点@Bの2つはため池の土手を利用するようにしてある。

 3つ目の与点Aは道路を建設するために亡失した四等三角点があった場所にしてある。

 北を頂点とした辺長1.8km程度の正三角形の形で、その3つの頂点の北側@、東側A西側
Bにそれぞれ反射板を置き、三角形の重心の位置Cを観測点にして、三方向の1km程度の
観測を行なうというものである。

 実際の観測をすれば、自分の観測がどの程度なのか、正解となる値と比較する必要があ
る。それにはGPS測量は最適といえる。

 GPS観測を利用した成果と対比してみるために、近くに電子基準点のある場所とした。

 観測当日に電子基準点を利用してGPS観測を行ない、その成果値から内角と標石上での斜
距離を求めてみて、1秒読みの機械で実際に観測した値と比較してみるという計画である。


雑な下見

 ファックスで指示のあった場所が、現在どのような状況か下見をしておくことにした。

 Cの位置は、どうも橋の位置のようである、足場もしっかりしており、コンクリート擁壁にでも
鋲を設置すれば問題ないようである。

 ファックスの図面をみながら@ABの位置を探すと、特徴的な地形が判断できる。

 北側頂点@のため池地中池の土手には以前設置した2級基準点がある。

 東側頂点Aの位置には、4m巾の町道と2m巾の水路が平行して、農耕地を直線に2km走っ
ている何も障害物のない場所。

 渡部さんの指示している位置には私設の基準点の真鍮鋲を設置している。「ここも問題な
い。この場所からだとCの位置の橋の場所が見えている。」

 肉眼でも白いコンクリートの橋らしきものが見えている。

 これがCの位置のようだ。

 西側頂点Bの位置はため池の松葉尾池の池土手である。

 ここも私設の基準点の真鍮鋲を町道から池土手を上がるコンクリート製の階段の最上段の
部分で池土手にもなる場所に設置している。

 階段に登れば、Cの橋が肉眼で見えている。ここも問題はないようだ。

 一応、渡部さんに確認の電話を入れておこう。

 「Cの位置については、橋のある場所になると思うけど大丈夫だと思うよ。」

 「了解しました。Cの位置については、やりたいことがあるから、何もしないでおいて。」


観測前日・天気予報

 あらかじめ研修会の開催通知のメールを1ヶ月前に出していたのだが、当日は大雪との天気
予報もあり、前日不動産登記法改正のための研修会参加のために土地家屋調査士会館にほ
とんどの出席予定者が揃う。口々に

 「明日、大雪だと言うぜ、本当にやるん。」

 「やるぜ。」

 開催場所の西予市は標高200メートルの盆地、暖かい四国のイメージと相違して、四国の北
海道と陰口をたたかれるほど積雪量の多いところでもある。

 冬場は、いつも積雪のため交通機関が通行止めになる場所で皆心配している。

 もう一つ大変なことに本年はスギ花粉が例年の30倍という。

 西予市は杉の生産でも有名な場所。

 今回はいつも参加の福田先生も「粘膜をやられてしまって。・・」と欠席。


第2章 当 日

寒い一日が始まる。

 本日は心配していた積雪はないが、寒い1日になりそうだ。

 ときおり、強い風とともに粉雪が舞っている。

 集合場所は高速道路西予インターを使用すれば5分ほど国道56号線を引き返す必要のある
場所である。

 高速道路の一つ手前の大洲のインターを降り、国道56号線を走った者。

 大雪の予想をして最初から集合に遅れる予定の者。

 少しでも早くと早朝から出発した者。

 それぞれである、朝9時に集合予定であるが、集合時間の9時前後まで、現地の集合場所ま
での道順の照会等、賑やかに私の携帯に電話が入る。


現地調査

 朝、8時20分頃、渡部さんから携帯に電話が入る。

 「@の地中池の基準点どこにある。」

 「池土手に電柱があろう。2本の電柱の真ん中あたりよ。」

 「地中池の四等三角点からいったらどっち。」

 「三角点の場所すぐ解かったんかな。」

 「対空標識があったよ。」

 普段なら探しにくい場所にある三角点のほうが先にわかったらしい。

 「その三角点がわかったのなら、そこから池土手を真ん中のほうに向かって19mほどの位置
にあるよ。」

 いつものように、早朝から現地を下見しているようである。


北側頂点@地中池にて

 朝、9時には総勢8名が集合場所に揃った。

 渡部さんも、集合場所に戻って来た。

 岡山から参加の水田さん、津田さんは1時間ほど遅れるとのこと。

 渡部さんから

 「今からすぐに現場に行きましょう。まず@の地中池の位置にいきましょう。」

 各自自家用車で正三角形の北側の頂点の位置@の地中池に向かう、朝方渡部さんから電
話があったように、三角点の位置に対空標識の白い板が、三角点の標石を中心にして三方向
に設置してあり、簡単にわかる。

 我々が以前設置した基準点は、それよりも19.19m離れた位置にあるはずである。

 正確に距離を覚えているは、この基準点は対空標識のある四等三角点地中池の成果が公
表される寸前に我々が作製したものであり、この三角点の成果が公表されていれば、計画も
全然違ったものになっただろうと後悔した場所である。

 当然、我々が国土地理院に問い合わせをすれば簡単に解ったのだが、当時はそこまで気が
回らなかった。

 そのため、三角点の成果が公表された時に、この2級基準点の成果を確認する意味からも、
2級基準点を観測点にして我々が作製したもう一つの2級基準点を後視に四等三角点地中池
を観測したところ、水平距離19.19mであった。

 更に1998年に我々が山頂にある既設の三等三角点等の標石三角点を使用して新設した基
準点からの値と、同時期に国土地理院により新設された四等三角点の公共座標値の単純な
比較をすれば3cmほどの差であり、自分達の基準点の成果に胸をなでおろした経験のある場
所なのだ。

 三角点から、池の土手を大またで20歩ほど歩いたところに基準点が顔を出している。

 朝方、渡部さんが探してくれていたのだが周りはススキと雑草が生え放題になっている。草刈
鎌で周りをきれいに刈り取ると、直径8cmの真鍮鋲の周りに保護石がわりに使用している
30cm角のコンクリート基礎枠が傷もなく出てきた。

 傾斜もなく移動もしていないようである。

 真鍮鋲には登記基準点の刻印をした後、12cm角、長さ60cmのコンクリート杭にモルタルで
固定している。

 コンクリート杭の固定については、池土手に、40cm角の大きさで、深さ70cm程の穴を堀った
後、100s近いモルタルと土をつき固めて多少の衝撃では移動しないように固定を行ってい
る。

 同じような池土手に設置していた基準点について、池のポンプ工事のため重機がかなり通行
したにもかかわらず損傷していなかった。

 その基準点も日本測地系でのGPS観測による基準点であり、世界測地系で再測量を行って
いた場所でもあったことから、移動の恐れも考慮に入れてGPSにより改測を行ってみたところ
座標のずれは1mmであったことから移動はないものと確信した。

 基準点の固定については今後ともこの方法によらなければと思う。

 座標の成果値が単に高精度というだけでは無く、基準点自身の移動のないことが利用する
ための絶対条件であり、基準点には信頼という言葉が含まれている。

 GPS受信機をタイマーでセット。


西側頂点B松葉池の位置

 続いて、もう一つのため池、松葉尾池Bの位置に向かう、ここは正三角形の西側の頂点とな
る場所。

 ため池に上るためのコンクリート製階段の最上段に私が個人的に作製した基準点を使用す
ることにした。

 あらかじめ、渡部さんと電話で連絡しており、この位置には私設基準点があることは説明して
いた。

 「周りに障害物ありませんか。」

 「5mほど横に電信柱があるけど、小さいものだから大丈夫だと思うよ。」

 「いや、そこだけじゃなく、地図をみたら@ABCの位置の全体で障害物をみないといかんか
ら、GPS観測の条件が悪くなるかもしれん。」

 と話をしていた場所。

 基準点から5mほどの場所にポンプアップをするための直径20cm、高さ3mほどのコンクリー
ト製の電柱に高さ1.5m、巾80cmほどの配電盤が設置されている。

 現地を確認すると渡部さんあっさりOKをだした。

 ここもGPSをタイマーでセットする。


東側頂点A道路の位置

 今度は、正三角形の東側の頂点となるAの位置である。

 @Bの場所は平野部のため池の土手にあるため、視通は効きやすい場所なのだが、Aの
位置は耕地の中を南北に走る4m巾の直線道路の位置である。

 丁度、この通路は部落排水の道路工事のため、通り抜けが禁止になっており、すこし通り過
ぎた場所から迂回して現地に向かう。
 現地に到着すると、渡部さんは高さ3m、巾
5mほどの鉄製の水門の位置を見上げている。

 その10mほど横の道路の位置には、先ほど
の池土手の基準点と同様に、私設の基準点の

真鍮鋲が入れてある。

 「この基準点使えないだろうか。」
 「そこに基準点があるの。ここは高い位置じゃないと見えないと思う。」

 と鉄製の水門の上に登ると三脚をすえつける広さは十分あり、水門の鉄板を傷つけないよう
にとマジックで印をつけてGPSのタイマーをセット。


Cの位置の選点

 とりあえず@ABは決定したのだが、まだ肝心のCの位置が決まっていない。

 正三角形の中心の位置となるCを決める必要がある。

 当然Cからは@ABの視通をそれぞれ確保する必要がある。

 大体の目安になっている橋の位置に集合。

 ここで岡山から参加の水田さん、津田さんも合流する。

 渡部さん、@ABの視通が効くかどうか確認するのだが、相手は1km程度の距離がある。簡
単に見ることは出来ない。

Bの位置については、障害物もなく直ぐわかったのだが@の位置がわからない。

 池中池の土手は、池の南側に並ぶ建物の1階部分ほどの高さになるため、Cの位置からで
は建物の隙間から見える形である。

 渡部さんもさすがに一発では見極めが出来ない。

 「滝上さん見える。どの方向になるの。」

 「水色の建物と、2階建ての新築の建物の間のあたりよ。あのあたり。ここでは見えんな。」

 川土手を移動し、双眼鏡で覗き込むと黄色いものが、木製の三脚がみえる。

 「ここやったら見えるぜ。」

 「見えたかな。どこ」

 「この位置よ。」

 「ちょっと待ってよ。」

 金属製のケースに入ったセオドライトを取り出し三脚に取り付ける。

 1秒読みのセオドライト、ニコンNT−5である。

 @Bはこの位置で見えるのだが、水門の位置のAはどこにあるのか肉眼では全く解らない。

 渡部さんは大体の位置がわかっていると見えて、見える場所を求めて、機械を据付け実際に
望遠鏡で覗きながら視通を確認している。

 見えないと解るとどんどん移動していく。

 とうとう、橋の位置からは耕地整理の田んぼ一枚分を完全に移動し、更に3m幅の開水路を
通り越し、次ぎの田畦へと移動して行く。

 朝からの小雨(雪)のため地面は湿っている。

 後から付いていくが、土盛りで傾斜のある水路で足が滑り、つるりとものの見事に尻餅をつ
いてしまった、それが景気付けになったのか、水路から2mほど入った小道のようになっている
畦で

 「見えた。見えた。この位置にプラスチック杭でも打って。」

 プラスチック杭を半分ほど打ち込んで研修用の仮杭を設置。

 やっとCの位置が決まった。

時間が無いと、直ぐにGPSの観測が開始される。


反 省

 いつも、いつも反省である。

 今回もこの項目を入れなければならない。

 日頃から雑な性格と自覚はしているのだが、今回もこの性格が顔を出した。

 渡部さんからのファックスの図面は国土地理院発行の地図であり、やや古い地図であり、現
地は圃場整備事業のため形状が相違していた。

 つまりCの位置をどうも私が間違っていたようなのだ。

 橋の架かっている位置ではなく、200mほど東の位置の川土手の位置が渡部さんの考えてい
た位置らしいのだ。

 私が類似している地形から橋のかかっている位置と勘違いしてしまったようなのだ。

 当日、渡部さんは現地に来て慌てたに違いない、だからAの位置が水門の上でないと見えな
いと言っていたのだ。

 私がAの位置から見ていたのは現地で選定したCの位置ではなく、渡部さんが地図上で選
点したCの位置と現地の橋の位置の形状が似ていたため早合点してしまった。

 車で現地に向かい、「見えた、見えた」と雰囲気だけで確認していた。

 距離のある場合の現地確認の下見をする際には、やはり目印になる目標物を立て、双眼鏡
で覗き込む程度の慎重さは要求されるのだ。

反省。


第3章 観 測

GPS観測

 実際のセオドライトでの観測を行なう前に、GPSでの観測が開始された。

 @ABCの各測点に任意の高さでGPS受信機を設置。

 電子基準点からの距離は最大距離でも2km以内であるためデータ間隔は30秒、予定時間は
10時30分から11時30分までの1時間観測である。



 観測終了後、電子基準点のデータをホームページからダウンロードして電子基準点と関連付
けを行った観測として解析を行う。

 電子基準点のデータは3時間経過したら国土地理院のホームページ上に観測データが公表
されている。

 本日の1秒読みのセオドライトの観測が終了した後、私の事務所でデータを取り込んで解析
することとした。

 高さを合わせて

 GPS観測終了後、ふたたびCの位置に集合。

 寒風の吹きすさぶ川の土手で、コンビから買ってきた昼食を各自車の中で済ませる。

 風が強く、太陽は顔を出しているが時折小雪が舞っている。レンジで暖めた弁当とお茶だけ
が温かい。お昼だというのに朝の気温よりも低く感じられる。

 20分ほどで昼食を済ませ、観測の準備にとりかかる。

 10人が順番に観測することから長時間の観測になることが予想され、太陽の熱が据付をし
た三脚の片側だけにあたり、温度の膨張で傾いたり、風で移動したりすることのないように木
製の三脚を使用した、更に風対策として、木杭もしくはプラスチック杭を地面に打ち込み、それ
と三脚を紐で結び固定した。

 これは先のGPS観測でも使用し、GPSのアンテナを取り外したたけで三脚をそのままにして
おいた。

 反射板を設置して高さだけを合わせそのまま使用することとした。

 それぞれに@ABの位置に向かい反射板の高さを1.40mに合わせてミラーの方向をCの方
向に向け帰ってくる。当然、石突きを良く踏み込んで固定し、求心・気泡管の確認や三脚の固
定について再度のチェックを行ったことは言うまでもない。

 そしてCの位置で木脚の上に私のTSを1.40mの高さになるように据付た。

 距離の観測は、私のTSを使用する。

 私のTSは、愛媛会が作製した基線場でチェックしており、距離測定については問題がないこ
とは確認している。

 12時30分、温度5度、気圧997ヘクトパスカルをTSに入力して斜距離を観測するのだが、相
手の位置がよく解らない。

 @の位置はなんとか解ったのだがAが全くわからない「Aの位置はどのあたり。」

 電子基準点のある小学校の建物が邪魔をしているのだろうか。

 道路も盛り上がっている場所があるのだが全く見当も付かない。

 「ちょっと視準をわざとずらしているけどこのあたりよ。」

 渡部さんが自分で大体の位置を合わせ、覗き込ましてくれた。


 飛行場の管制塔のように見える水門の上に、黄色い三脚と黄色に黒の反射板が、シャッター
の遅い、手ぶれのある写真のような感じで見えている。

 Bの位置は、外の2点に比べて距離が短いように思われ、肉眼でも三脚が見える位置のた
め簡単に見つけることが出来る。

 距離のみを観測する。

 使用している機械が慣れている自分のものということもあり、陽炎が気になっても、なんとか
観測することが出来た。


観測開始

 13時、いよいよ1秒読みのセオドライト、ニコンNT−5を使っての観測の開始である。

 再び、金属製の砲弾のようなケースから機械を取り出す。

 もう一度木製の三脚を据付直す。石突きをこれでもかというように踏みつける。

 思わず田の土が可哀想になるほど踏みつけている。

 木製三脚の石突は3つともめり込んでしまった。これなら移動することはない。

 現在の観測状況がどのような状態なのか、参加者全員興味がある。

 最初の観測者にはなりたくないが、どのような状況なのかは知りたいところ。

 「ちょっと覗かせて。」

 「どれどれ。」

 いろいろな表現で皆、望遠鏡を覗き込む。

 私も、改めて望遠鏡を覗き込む。

 「ひどい。」としかいいようのない状態。

 特にAの位置は陽炎がたっている状態ならまだしも、陽炎の揺らめきを、強い横風が大きな
うねりに変えているようにさえ見える。

 本来、大気の安定していない午前10時から午後2時の間は水平角の観測を行なってはなら
ないことになっているのだが、今回は研修である。

 何事も経験とやってしまう。

 「最初はやろうわい。」と渡部氏である。

 鉛直角は1対回観測、水平角は2対回観測により3方向の観測が終了した。

 渡部さん以外は全員手簿者となって手簿をつけている。

 15分ほどで観測が終了し、

 「どうやった。」と渡部さんこちらに尋ねる。

 「大丈夫よ。」きちんと制限内に収まっている。

 1級基準点の1級経緯儀を使用したときの制限、高度常数10秒・倍角差15秒・観測差8秒を
いずれもクリアーしている。


鉛直角

 「それじゃあ、頑張って外すか。」

 2番手に名乗りを上げる。

 はなから制限内に入るとは思っていないが、初めて使用する機械なので緊張する。

 寒さ対策の軍手を脱ぎ、素手で機械に触る。

 まずは鉛直角の観測からと、@の目標に合わそうとするのだが、先ほど使用した自分の光
波測距儀とは勝手が違う。

 目標とするものの距離も1km以上だから、肉眼で捕らえることは無理だが、自分の光波測距
儀であれば大体の方向をピープサイトで合わしてから、望遠鏡を覗いて探すのだが、この機械
には無い。

 いや、それがどこにあるのか分からない。

 仕方なく機械の上部から覗き込み。

 「@の反射板は、家の横、反射板はどこだ。」

 とぶつくさ言いながら目標物を探す。

 「あそこか。」

 大体の位置を決めてから、望遠鏡を覗き込む。

 望遠鏡を移動して目標物を視界に入れなければならない。

 新築の2階建ての建物が見えている、もう少し右の位置のようだ。

 NT―5には、固定ねじが2つずつ縦と横に並んでいる。

 横に二つ並んでいるうちの水平固定ねじである程度の位置で固定、その横の水平固定微動
ねじを利用して微調整を行う。

 そのことは頭の中で順番がわかっていても、慣れていないためか動作が反対になる。

 固定したと思っても、スーッとそのまま移動してしまう。

 「しまった。」と思い、慌てて別の方のねじを使って固定する。

 水平を固定して、今度は目標物を真ん中に捕らえるため、望遠鏡を上下する。

 同じように縦に並んだ望遠鏡固定ねじを使い、望遠鏡固定微動ねじで調整する。

 頭でわかっていても、微動ねじを先に触ってしまい、一向に移動しない。

 慌ててねじを変え、固定して微動ねじで調整する。

 文字にするとたったこれだけなのに、時間はもう5分を過ぎようとしている。


スタジア線

 @の目標物である黄色に赤の木製の三脚、黄色に黒の反射板が見える。

 陽炎が「おいで、おいで」と手招きをして、木脚と反射板がフラダンスをしている。望遠鏡のヘ
アーの中に入ったり、はみ出たり忙しい。

 それでも、望遠鏡の横のヘアーの線に合わせると、フラダンスは横移動だけのため反射板
の横の位置を捉えることが出来た。

 覗き込むと望遠鏡の視界の中の左側になにやら楕円形のようなマークがある。

 これが何かはわからない、視界の邪魔にはならないので気にせず観測を進める。

 今度は、反転しての鉛直角の観測である。

 同じように横のヘアーに合わせるが、今度は先程のような楕円形のマークは見えなかった。

 機械の何かの信号なのかと気にせず、観測が出来たものとマイクロメーターを読んだのだ
が、横で手簿付けをしてくれていた渡部さん。

 「うん、ちょっと待ってよ、それ、どこ見とるん。」

 「えっ、ちゃんと反射板を見ているのだけれど。」

 「ちょっと待ってよ。」と渡部さん、望遠鏡を覗き込む。

 「これ、スタジア線じゃが」。

 どうも中央のヘアーではなく、下側にあるスタジア線を中央のヘアーと間違って合わせたよう
である。

 鉛直角の正、反の値を足したところ360度からかなりの角度の相違があったらしく、直ぐに指
摘が入った。

 私の使用している光波測距儀では、ヘアーが縦も横も中央までは2本、中央からは1本になっ
ている。

 だが、この機械は横のヘアー、つまり鉛直角については1本しかない。

 目標を下側のスタジア線に合わせて見ていたのに気がつかなかった。

 「これの方が合わせやすいのに。」

 と無駄口を叩きながら、もう一度観測を行う、今度は視界に楕円形のマークが入り、ヘアーを
合わせて鉛直角を読む。

 言われた時にはわかっても、寒さのため目標を見ること以外の思考は停止している。

 Bの位置の反転の観測に、もう一度スタジア線で観測していると指摘を受け、慌てて訂正し
ながらも鉛直角観測は終了した。


マイクロメーター

 目標物に視準を合わせ、測定値を読もうと、横についているマイクロメーターを覗き込む。こ
れが最近全く使用していない代物。私自身、マイクロメーターの機械は15年以上前に使用して
いた経験があるが最近はデジタル表示の機械しか触っていない。

 外側の線2本で真ん中の線を中央に挟み込めと言われても、なかなかその感触が思い出せ
ない。

 横線が3本ほどあり、マイクロのねじを動かし中央の線2本で、1本を挟み込むようにするのだ
が、動かすことにより外側2本の線の巾が縮まり、真ん中の線を真ん中になるように挟み込
み、外側の2本線の巾が最小になる位置の数値を読むことになる。完全に忘れてしまってい
る。

 どの程度縮まれば、確定したことになるのか全然わからない。

 左側に度の表示、中央に10分単位の数値、そして左側に分と1秒までの表示が出ている。

 外側2本線で中央に捉えたと思っていても、左側の1秒表示の位置がずれている。

 これはまだ、本当に真ん中に捕らえていないのだとマイクロのねじをもう少し廻す。

 正確に合わしたつもりだったのだが、あれあれというくらいマイクロの数値は動いていく。焦
る。よく動くものだと思いながらやっとそれらしき位置になる。

 おまけに、最近のデジタル表示と違い、中の数値を読もうとすると外側のレンズから光りを取
り込んで内部の数値を読んでいるため、暗くなり見えなくなったり、明るくなりすぎたりする。

 そのたびに「見えにくいな。」と一度機械から目を離し、

 「何故見えないのかな。」

 しばらくして「ああ、そうか。」と外側のレンズの角度を変えマイクロメーターを覗き込む。


水平角

 1km以上の距離があり、ただでさえピントが合っていないようなぼんやりした見え方なのに、
ヘアーの2本線の中に捕らえたはずのAの位置の反射板が次の瞬間には大きく外側にはみ
出てしまっている。

 陽炎の激しいリズムに乗って反射板も木脚も踊っている。

 太くなったり、細くなったりダイエットも激しい。

 どの位置が本当の位置なのかわからない。
 反射板は2本のヘアーの中に十分挟みこめる大きさ
なのだが、それでも外側に出たり入ったり、黒と黄色の
表示もにじんで見える。

 じっと見ていても、なかなか定まらない。

 決断の早いのが一番、いえ、諦めるのは早いほうが
良いと最大公約数的にそれらしき位置を確定して決め
てしまった。

(陽炎)

 Bの松葉尾池の位置は、距離的にも800m程度で5mほど盛り上がった池土手にあり背景も
後ろが空いてくっきりと見えている。

 観測や目標を探すのにも問題なく進む。

 だが、反転して水門の上のAの方向に帰ってくると、もうその方向を忘れている。

 「との方向やったかな。」ともう一度、望遠鏡の上側から覗きこみ、あのあたりだったはずとぐ
るりと目標探し。

 気持ちが焦る分、時間がかかる。

 それがAの方向だけなら良かったのだが、自分が一番場所を知っているはずの@の位置で
さえ解らなくなる。情けない。

 2対回目も、同様の状態。

 もう年なのだろうか。

 老人性痴呆、いや若年性健忘症なのだ。

 やっと観測が終了。30分以上の観測時間である。

 皆に申し訳ない、こんなはずではなかった。

 素手で機械を触っていた指が、ホッとしたのか寒さのため動かなくなっている。

 緊張のためなのだ・・。

 そう思っておこう。


目 印

 私の健忘症ぶりに呆れたのか、次の観測者、工藤さんの時に、観測を終わった私に

 「プラスチック杭か木杭があれば持ってきて。」と渡部さん。

 車に戻り、プラスチック杭と金槌を持ってくる。

 渡部さん、それを受け取ると

 「@の方向はどっちの方向。ここでいい。」

 とセオドライトの望遠鏡を覗いている工藤さんに問いながら機械から15mほど離れた位置で
@の方向線上にプラスチック杭を打ち込んだ。

 同じ様にAの方向にも打ち込む。

 再々、私がどの方向だったのと問いかけたので、面倒くさくなったのかもしれない。

 その後、私のような間抜けな観測者はいなくなった。



第4章 観測比較

事務所にて

 18時、現地での1秒読みのセオドライトでの観測を終了し、私の事務所でGPSの解析を行う。

 GPS受信機からデータを取り込み、つづいて国土地理院のホームページから本日の観測デ
ータの世界時0時00分から5時59分(日本時間9時00分から14時59分)までのデータをダウンロ
ードする。

 電基準点、固定点のデータは国土地理院のホームページからダウンロードできる。

(1)ダウンロードデータについて

 3時間毎に6時間分のデータが登録されるので、ダウンロードすることができます。

 時間表示はすべてUTC(協定世界時)です。

開始時刻(UTC)  一一一一一→  終了時刻(UTC)
0 00:00:00一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一23:59:30
1 00:00:00一一一一05:59:30
2       03:00:00一一一一08:59:30
3            06:00:00一一一一11:59:30
4                  09:00:00一一一一14:59:30
5                        12:00:00一一一一17:59:30
6                             15:00:00一一一一20:59:30
7                                   18:00:00一一一一23:59:30
8                                        21:00:00一一一一23:59:30
 セッション0は1日分のデータ(UTC)、セッション8は次の日の3時間分のデータを含みます。

 ※欠測等により完全にその時聞分が揃っていないことがあリますのでご注意下さい。


データの結合について

 別のデータ時間帯にまたがってデータが必要な場合には、約3日後には24時間のデータが
アップロードされるのでこれを使用すればよい。
 急ぐ場合には、データを結合して利用する。
 ライネックスデータはテキストファイルなので、テキストエディタで結合することが可能です。 
 teqCというフリーソフトウェア(英語版)でも結合が可能です。Teqcの使用についてはTeqcマニ
ュアルをご参考下さい。(などの案内が、国土地理院のホームページに掲載されている)

(2)観測データ詳細について

 エポック開始、エポック終了はセッション番号により定められる時間であリ、実際の観測時間
とは異なります。例えばセッション1で1時間データが欠け、00:59:30-04:59:30だったとしても表
記は00:59:30-05:59:30となります。また、マルチパス等の詳細情報はteqcのOC(品質チェック)
より得られる値を表示しています。


三角点・多角点情報表示

 三角点・多角点情報表示は、国土地理院のホームページで見ることができます。

 閲覧者は、閲覧した成果等を利用する場合において、測量法及びその他の法令を遵守して
下さい。

 ここで表示されている測量成果及び記録の情報は、移転や改測等によって変更されているこ
とがあります。測量等に成果を使用する場合は、必ず国土地理院で確認(謄本(抄本)交付、閲
覧)の上ご使用下さい。
世界測地系(測地成果2000)
基準点コード5032−03−5803
1/50000地形図名 八幡浜
種別  電子基準点
冠字番号
点名  宇和
緯度   33°23' 3".7444
経度   132°28'31".2450
標高   220.35m
座標系   4系
X   43094,871m
Y   -95332,350m
縮尺係数  1.000012
ジオイド高  33.07m
ジオイド高区分
アンテナ高  0,110m
行政名  愛媛県西予市
所在地  西山田164-1
履歴  標高改測:2003/09/01
現況  現況報告なし
点の記図 あり

 「点の記」を閲覧するには、登録を行ない、登録ユーザでログインする必要があります。

国土地理院 地図閲覧サービス(試験公開)から。
国土地理院のホームページへ。
第1章に掲載している図面と同じです。



国土地理院 空中写真閲覧サービス(試験公開)より、上の地形図の地域
国土地理院のホームページへ。
2000年1月4日撮影、撮影高度6100m、撮影縮尺1:40000



 電子基準点宇和を使用して@ABCを放射により観測したように解析を行う、Cの位置から
の観測記簿により@ABへの距離を確認、そして成果表により方向角を確認する。

            記簿の値     実際の観測値
CからAへの距離 1,227m253     1,227m250
Cから@への距離 1,213m732     1,213m732
CからBへの距離  752m002      752m004

観測記簿に表示された距離は標石上間の斜距離である。

 今回光波測距儀で観測したのは、気温、気圧を自動補正して、機械高、目標高を全部1.40m
に統一して斜距離を観測している。

 つまり観測を行なった斜距離が標石上間の斜距離ということになるので、そのまま単純比較
を行えばよい。

角度については

Cから@への方向角  24度18分53.7秒
CからAへの方向角  112度46分36.9秒
CからBへの方向角  261度27分50.9秒

単純に内角を計算してやれば、@を0方向にして

Cを中心に@は     0度00分00秒
       Aは    88度27分43.2秒
       Bは    237度08分57.2秒ということになった。

果たして結果は・・。

観測が1秒相違した場合1,000m先で5oの位置誤差ということになる。



第5章 その他

懇 親 会

 観測終了後、お決まりの懇親会。

 「渡部さん、あの陽炎の中で良く観測できたね。目標はうまくはさみこめなかったろう。どのよ
うに観測するのかコツがあるんかな。」

 「三脚の形をよく覚えておくのよ。」

 と意外な答え。

 「反射板をヘアーで挟むのじゃないの。」

 「そうだけど、三脚との形で挟むのよ。実際にはもっとヒドイ状態でも観測せんといかんの
よ。」

 そうだったのか。果たして私にできるのだろうか。

 「観測の目標物の方向が途中でわからなくなったんだけど、後でやったように杭を打っておく
の。」

 「山だと、もともと目標物が見えにくいので、どこを見れば良いのか分からなくなるから、目標
物の方向に木杭か何かで印をしておく必要があるんよ。山だと、今日みたいな状態じゃない
ね。一度わからなくなると全く分からないから、印をしておく必要があるのよ。」

 「なるほどね。・・」

 「望遠鏡の中に見えていたのは気泡管なの。」

 「ライカ(ウイルド)の機械は縦に気泡管が付いていたので、この機械にもあるはずと思ってい
たんだけど、横になっていたので分からなかった。」

 合致式の気泡管だけに精度が良い。

 「この気泡管を合わせながら観測せんといかんのよ。」

 望遠鏡の中で何か視界を遮るものがあると思っていたものは気泡管であった。

 「この機械にはピープサイトは無いの。」

 「いや、この機械にもついていますよ。ただ、真上にはなくて横についていますよ。」

 知らないということは恐ろしい。

 ここまでは通常の会話だったのだが、本日の観測があまりにも寒かったため、温まろうとして
お酒を浴びるように飲んでしまった。

 今日のうちに参加者全員の観測を終了することが出来ず、翌朝6時から追加で観測すること
になったのだが、調子に乗って飲みすぎここからの記憶が飛んでしまった。


翌朝6時

 翌朝6時、昨日とおなじように寒くまだ外は暗い、反射板とミラーだけを外し三脚を残している
ので、残された三脚に再び反射板を据付に行く。

 求心望遠鏡を覗くと、真鍮鋲の十字のマークが暗くぼんやりと見える。

 反射板を設置し、求心を行うがうまく求心できない、とにかくまわりが暗い。

 何か白っぽいものをと探し、真鍮鋲の十字の上に枯れた草を十字にして、再度求心を行え
ば何とか見える。

 気泡管を合わせ、定心かんを緩めて求心を合致させ、再び定心かんを締め付けるのだが、
なんと整準台が締め付ける方向にずれていく。何回やってもずれていく。

 一体どうしたのだ。

 観測開始時間が迫り、慌てながら数回繰り返すと三脚の脚頭から薄い氷が落ちていった。

 氷が張っていたのだ、寒いはずだ。

 そのうち太陽も顔を出し、まわりも明るくなり1秒読みのNT−5を再びCの位置に据付ける。

 6時30分には観測のできる状態になった。

 前日観測のできなかった大野さんが覗き込む。

 「これは昨日観測した人に申し訳ないくらい良く見えます。水門の上のAの位置もくっきり見
えます。」

 「どれどれ」と覗き込むと本当に鮮明に見える。

 やがて大野さんの観測が始まり、きちんと観測の制限に入った。


やはりマイクロ

 本日の観測は順調に進み、8時30分、参加者の観測も一通り終わったようだ。

 「後一人だけ観測出来ます。これで終了にします。」と渡部さん。

 「かまんかな。」前日の名誉挽回と私が進み出たのだが、これが不幸の始まりだった。

 確かに、目標物の見え方は前日とは異なり、陽炎はあるが昨日ほどではない。

 特に前日苦労した水門の上のAの位置の反射板は鮮明に見えている。

 鉛直角から順番に観測していくのだが、手簿をつけているみんなが何かざわついている。さ
らに水平角に移ったのだが同様にざわついている。

 昨日よりも目標物はきちんと捕らえているはずだ、観測がおかしいはずはない。

 ただ、マイクロメーターが先ほどから見えにくい、覗き込んでも見えない時がある。

 レンズの角度を変え、明かりを取り込んで見るのだが、昨日よりも明るい、明るすぎる。マイ
クロメーターの数字が良く見えない。

 先ほどからこれで悪戦苦闘している。

 どうにか、観測を終えたのだが渡部さんから

 「観測ばらばらじゃが、どうしたん。」

 とお小言を食らう始末。

 数年前、2級基準点測量を行った時には、前日多少のお酒が入っていても観測ができてい
た。

 今回も同じだろうとなめてかかっていた。

 2級基準点を観測した時には、現在使用しているTSだった。

 目標物を捕らえた後はそのままデジタルで表示され、自分で数値を表示する必要がなかっ
た。

 今回の機械は目標物を捕らえても、そこから自分で数値を決定する必要がある。

 前日の飲みすぎや、睡眠不足などは本当に慎まなければならないことだったのだ。

 無駄に年だけを重ね、山に登り山頂の三角点を使用した基準点の経験もただやってしまっ
ただけのものなっている。

 その後1週間、風邪による発熱、体調不良という罰を受けてしまった。


思うこと

 今回の観測を経験して思うこと。

 1秒読みのセオドライトが使えなくても、GPS観測を行なえば同様の結果を得ることが出来
る。

 1秒読みのセオドライトで観測が出来ることは、不要になるのかもしれない。

 しかし、その観測ができることを単に技術という言葉だけで片付けてしまって良いのだろう
か。

 そこには、本当に大切なものがある・・。

 基本に忠実に、確かな技術を積み重ねた高度の技術、経験に裏打ちされた正確な知識。

 目先の便利さや結果だけに捕らわれていると、本当に大切なものが失われていくような気が
してならない。

 これは私だけの思い過ごしなのだろうか。


 今回の勉強会に参加された方の感想を紹介して終わりにしましょう。

 「機器の性能がよくなって、すっかり忘れてしまっていた観測の基本動作を、あらためて想い
出させてくれた実習でした。再測原因として昔々、測地測量の先生から教わったものをなつか
しく思い出すままに列記してみると、次のようなものだったような気がします。」

 @ 機器の箱、脚バンドなど観測に支障のないように整理整頓
 A 観測者の観測姿勢の不良。視準読定時に体が正対していない。
 B 観測中、三脚をまたがない。
 C ピント不良(測微鏡、望遠鏡)
 D 各部の締付けネジ、微動ネジの操作不良
 E 微動ネジで目標合致後、手を離して目標再確認
 F 機器の操作は両手で静かに行う。
 G 各対回観測中は、視度調整をしない。
 H 軟弱地盤で脚杭、踏板などの設置不十分

 「古いマイクロメータの測量機器で観測を行ない、制限内に入れることができなければ・・・。
 機器の助けをかりているうちは、技術者とはいえないんでしょうね。」


















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