●地籍図17条地図
一筆地を明確にすることが出来る地図として国土調査により作成された地籍図が代表的な
ものである、既に日本国土の40パーセント以上を占める面積について実施され地籍図が作成
されている。
国土調査を監督、実施する側の国土交通省は、昭和26年の国土調査開始以来、時代ととも
に、より良い地図を目指して国土調査を監督し、豊富な経験と知識により、時代に適応した測
量機械を使用し、過去に生じた数々の問題点を反省し、問題を発生しないよう努力し、より良
い地図となってきている。
地籍図は認証された後、法務局に法17条地図(以後「地籍図17条地図」とする)として備え付
けられる。
しかし、法務局に備え付けられた地籍図17条地図については、法務局が維持管理するもの
であるとして、作成された後については、地図自体の用紙の伸び縮み・図根多角点の管理・時
代とともに変化する社会的環境・所有権境界と筆界の関係等体系的に考慮されたことは無い
ようである。
最近の地籍図作成では解決されている問題も、既に法17条地図として備えられてしまってい
る地図については、時代をさかのぼることは出来ず、これらの問題は残ったままである。
●世界測地系へ
2002年4月、日本測地系から世界測地系へと測量の基準が改正された。
GPS測量も電子基準点の使用が可能となり、我々土地家屋調査士でも高い精度の測量成
果を得ることができるようになった。
今まで土地家屋調査士が技術的な不安から躊躇していたことも出来るのではないか。
従来の図根多角点について考察するとき、比較すべきものは本当に誰がみても精度の良い
信頼性の高いものでなければならない。今回の測量法改正によりそれが出来るのでないか。
本年度は、地籍図作成時に設置された既設の図根多角点と現在の技術で新設・改測を行っ
た図根多角点との測量精度の比較をしてみることとした。
その比較を行った上で
図根多角点網の歪み。
図根多角点が一筆地の筆界に与える位置誤差。
複数の図根多角点を使用することによる一筆地への影響。
亡失図根点に替わり新設図根点を使用する場合に考慮すべきこと。
以上のようなことを検証してみたい。
知恵はないが、思い立てば実行しなければ気のすまない業務部である、早速法17条地図検
証計画にとりかかった。
●鷹子17条地図
検証を行うにあたっても土地家屋調査士自ら作成した地図であれば、その作成過程等につ
いて詳細を知ることが出来るはずである。
問題点も上辺だけを捉えるのではなく、複雑に入り混じった複数の理由を知ることができる
のではないか。問題となった点の本当の理由を追求し、それに対処する方法を考案することこ
そが地図に関する専門家として土地家屋調査士に与えられた使命ではないだろうか。
数値法によるものであれば数値同士の比較が出来るので簡単である。
愛媛会は昭和62年の法務局の法17条地図作業を会員研修として捉え、松山市鷹子地区
に県下の土地家屋調査士が参加して全点に不動標識を設置した数値管理地図の法17条地
図を作成している。
全国に誇れる17条地図として愛媛会の財産となっている。この鷹子17条地図こそ検証の対
象にすべきであると考えた。
●まずは
7月下旬、鷹子17条地図地区の図根多角点の現状について調査を開始する。
鷹子地区には法17条地図作成時に図根三角点6点、図根多角点399点が設置されている。
当時の図根多角点網図を片手に、汗を拭きながら現地を踏査する。
当時の図根多角点には真鍮鋲が設置されているが、交通量の多い道路に設置されたもの
は車のタイヤで磨耗され、真鍮鋲は光り輝いているのだが頭頂部の十字の印は見事に消えて
しまっている。
●図根三角点
現地踏査によると鷹子地区は開発が進んでいる。
現地の図根三角点も病院の屋上に設置したため改築・増築により亡失したもの。
公共施設の屋上に設置したため施設の老朽化に伴い、取り壊し予定のもの。
グランドの隅に設置されていたが工事により亡失したもの。
道路に地下埋設されているが、やや傾斜していて異動の恐れがあるもの
17条地図作成時に設置された図根三角点のうち、見た目で大丈夫そうなものは学校屋上の
図根三角点1点だけという、将来に不安を抱かせる結果となってしまった。
●1、2級精度図根点
鷹子地区全体の図根多角点を検証するためには、地図作成と同様な手順を踏む必要があ
り地図の骨格である1、2級基準点に準ずる精度の図根点(以後○級図根点とする)を作成す
ることとした。
電子基準点が使用できる状況となったため国土地理院が設置した電子基準点北条・愛媛川
内・伊予の3点を使用して、1級図根点4点、2級図根点1点を計画した。
ただし、この時点では電子基準点を使用するにしても詳しい解説書等がまだ公表されていな
い時期で、GPS大明神である渡部業務部次長も暗中模索、まさに手探り状態での観測・解析
となった。
8月2日、GPSの二周波受信機3台、一周波受信機2台を使用して観測を行う。
電子基準点を利用しての1級基準点観測については1セッション2時間の観測となっている
が、受信状態や電子基準点からの距離を考慮して3時間の観測とした。照りつける太陽の中、
じっと待ち続ける。
●電子基準点を使用した解析
電子基準点のデータはまだ即日公表されていないため、2日あとに国土地理院のホームペ
ージからインターネットを利用してダウンロードし、我々の観測した受信データとともに解析を行
う。
1、2級図根点の解析結果は、ものすごい精度となり、これからの測量は電子基準点を使用
した測量が主流となることを実感する。
●3級図根点
1、2級図根点が設置できたので、200メートルに1点程度の配点を目安として3級図根点の
作成へと進む。
一筆地を測る土地家屋調査士にとって、公共座標で測量を行うためには不可欠な図根点で
もある。
鷹子地区の地形等により24点の3級図根点を設置することにした。
業務部の内部研修の位置付けであるが、広く会員からも参加を募り、GPS受信機8台で6セ
ッションの観測を行うこことした。
観測を行うにあたっては、今回の観測にあたり新設したもの、既設の図根多角点にGPS受
信機を設置し観測するものがある。
●観測中
8月17日午前9時、コープえひめ久米店の駐車場に集合。3級図根点のGPS観測にあたっ
ての観測上の注意、受信機の取り扱いの説明を受け、各自受け持ちの観測場所へと向かう。
2セッション目のB−2での観測中、休日ということもあり、近所に住む顔見知りの法務局職
員とばったり出会い世間話をしていると、道路反対側の家から70前後の男性が、こちらにや
ってくる。先ほどからえらくこちらを気にしているようである。
「何しよんぞな。」
「はい、昔やった測量について確認をしています。」
「地図をいろうんだったら、法務局に言うてもらわんといけんぞな。ここは17条地図なんじゃ
けん。県中の土地家屋調査士が集まって測ったんじゃからの、違うとるんかな。」
「いえいえ、最近の測量機械が良くなったので、昔の測量の確認をしてます。今やっている測
量は人工衛星を使った測量です。私も土地家屋調査士なので昔やった分について、責任をも
って確認しておかなければならないと思ってやってます。」
「そうかな。ここらは戦時中滑走路だったので、地図が滅茶苦茶やったのを直してもろうて良
うなったんだから、なんかあったら市長に文句言わんといけん。当時わしは区長で皆に説明し
てまわったんじゃからの。」
「このあたり、滑走路だったのですか。」
「ほうよ。学校のところから、丁度このあたりまでよ。」
なるほど、このあたりには珍しくきれい区画が整理されているのは、そういうことだったのか。
先ほど犬をつれて散歩に出てこられた近所のご婦人、散歩から帰るなり、わざわざ「暑いでし
ょう」とジュースを持って来ていただいた。
我々が地図に関連していることをやっているという事が解っているのだ。鷹子地区の皆さん
それぞれが17条地図に深い思い入れがあるのが解る。
●4級図根点
24点の3級図根点の観測を終了し、解析も完了した。やはり、すごい精度である。
一筆地を測るために、必ず必要な4級図根点のための与点についてはすべて観測を終了
し、鷹子地域の全域をカバーすることが出来る。
本来であれば、すべての図根多角点について観測し、その成果を比較すれば良いのだが、
時間的、予算的にも制限があるため、4級図根点については鷹子地区の外周を中心に設置し
て観測するこことした。
国土調査の良し悪しすべてを経験している渡部次長の計画、選点により、4級図根点につい
てはTS観測により厳密水平網、厳密高低網計算を行うものとした。せっかくの機会であること
から、会員研修としても実施するこことしたので、20点前後を1つとしてA、B、C、Dの4ブロック
で観測・計算を行うこととした。
●機械のチェック
観測を開始するにあたって、自分の光波測距儀のチェックを行う。
9月15日午前9時、集合場所は松山支部の基線場のある高速道路の松山インター高架下の
河川敷である。各人自慢の光波測距儀が勢ぞろい。まずはリース切れ寸前の私の光波測距
儀を、基線場の杭に設置された鋲の十字に合わせ、機械を据え付ける。
50m程離れた基線場の一方にも鋲の十字に合わせミラーを設置している。
「49.996・49.997」なんとなく、この基線場の基線長(49.996m)に一致している。
一安心。
続いて、今治の日下境界鑑定委員長
「今治支部でチェックしたら、私のだけおかしくて、支部の皆にいろいろ言われたんよ。」
流れる汗を拭きながら、観測開始
「49.995・49.995あれっ、やっぱりおかしいのかな。」
続々と観測が進み、ほとんどの光波測距儀の距離測定は、49.996mから49.998mの間であ
った。
松山支部の松本支部長、地元の割には、まだ観測を行っていない。なにやら外国製の機械
である。先ほどから携帯電話を片手に説明書を覗き込んでいる。どうやら機械の操作は補助
者任せにしているため、機械の操作がわからないらしい。そのうち機械から求心のため、鋲の
十字に向かって赤色のレーザー光線を発射した。
「すごい。すごい。これ自動追尾装置もついとる機械でしょ。」
皆の注目を浴びたが、結局この機械では距離の測定はできなかった。
その後、鉛直角は1対回、水平角については2対回観測の練習を行い、いよいよ鷹子の現場
での観測である。
●TS観測
4級図根点の観測が始まったが、本日は午後だけの観測のため、無理をせず、交通量も比
較的少ないCブロックで新点17点、与点4点の観測を開始する。
既に観測の難しい場所、交通量の多い危険な場所は先行して観測は終了していたため、ス
ムーズに観測は進むのだが、新入会員の参加が多かったためか2方向の観測であるにもか
かわらず、観測時間は1点あたり30分程度となった。今後の課題である。
9月28日本格的な観測が開始する。本日は会員参加の呼びかけに応じて38名の大所帯と
なった。集合場所のコープえひめ久米店の駐車場から移動して、観測の場所でもある愛媛信
金の研修所前で本日の説明を行う。さすがに38名の人数が、光波測距儀を設置し、一ヶ所に
集まっていると、同時多発テロと勘違いしたのか、警察に通報があったようである。パトカーが
10分置きに、我々の横を通過することになる。
路上での仕事の多い土地家屋調査士。そのような出来事はいつもの事と、全員気にとめて
いない。なんと面の皮の厚い集団であろうか。
説明終了後、4−14の位置での4方向観測について、大野達彦氏の模範観測の後、4班に
分かれ観測を開始した。観測については日頃の業務で使用しているかどうか観測時間ととも
に明確になったようである。
それでもBブロックについては、午前中で観測を終了し、午後からは最大のブロックであるA
ブロックへの観測となる。さすがに、観測点数が多くすべてを観測することは出来なかったが、
本日の目標は達成した。
本日は厳密網の解析も行うため、合同会館へと向かう。
●厳密網計算
合同会館に集合し、厳密網計算のためのチェックを開始する。
手簿のチェックを電卓で行う。内角等のチェックを行った後、エクセルを使用して傾斜補正を
行い高低計算。投影補正を行った後、近似座標計算を行い、記簿を作成した。
時間はもう22時となっている。
どうせ本日中には帰れないと諦め、厳密網のソフトに入力。Bブロックは水平網については
標準偏差6.91秒。高低網については標準偏差3.69秒。満足出来る結果だ。
あと少しとばかりCブロックの計算を行う、水平網5.67秒、高低網12.64秒これも本当にすごい
結果になった。
時計をみると、23時55分。
何とか本日中に解析を終了することが出来た。
参加者一同、合同会館から一目散に帰路に向かう。眠いが心地よい疲労感である。
深夜まで解析作業の皆さん
●キネマティック測量
10月3日、Aブロックの残った分を役員により観測した。これで4級図根点については78点の
観測となったが、まだどうも満足できない。
「図根多角点は399点あるから、4級図根点についても100点はほしいね。」
「じゃあ、キネマティック測量で24、5点作りますか。」
GPS大明神の渡部次長、最初から考えていたらしい。
10月13日、上空の視通の良い場所で、キネマティック測量が開始された。
現地を2つのブロックに分けての観測である。既知点2点にGPS受信機を設置。もう1つの既
知点で移動するGPS受信機を初期化後、観測を開始する。GPS受信機には1メートルポール
を接続しポールを持ちながら移動を行う。
一周波受信機のためサイクルスリップをすることのないように障害物に気をつけて、注意深く
移動を行う。
移動中、ふとみると2階建ての建物。反対側には道路にせり出した松の木。以前河川敷で練
習した際。見晴らしのよい河川敷に大木が影を落としていたが、気にせずその下を通り、サイ
クルスリップをして困った経験をもっている。これは駄目だこの点の観測はやめて、障害の無
い田んぼを通って次の点に行こう。ぐるっとおお回り。
そんな時、えらく建物に寄って観測している班がある。
「大丈夫、建物が近すぎて障害にならないですか。」
「観測出来てるから大丈夫。」「そう。」
首をかしげながら通りすぎる。
この後2点を観測して、当初の予定より1点少ないが観測を終了した。
観測終了後、集合場所に集まっていると、「サイクルスリップした」との電話が渡部次長のとこ
ろに入る。どうやら先ほどの班のようである。観測中は大丈夫だったが、移動しようと動かした
途端にサイクルスリップしたらしい。経験。経験。
全員観測を終了し、合同会館へ観測のため移動。
新点30点について解析し、当日中に合同会館を後にすることが出来た。
●まとめ
この原稿が会報に掲載される頃、ある程度の検証が出来ていると思われます。
検証の結果が我々土地家屋調査士にとって無駄なものになるか、有意義なものになるか全
く解りません。もっと我々に実力があれば、このような検証は行わなくても良いのかもしれませ
ん。
しかし無駄になってもやっておかなければならないことはあると思います。
今回、愛媛の土地家屋調査士会が、このような検証を行ったという事は大切な事だと思いま
す。少なくとも自分達の現在の実力を知ることが出来ました。そして不足していた部分も解りま
した。不足する部分を謙虚に認め、補う努力をしたいと思います。
最後になりましたが、地元松山支部、そして遠方にも関わらず多数参加していただいた今治
支部、西条支部の皆様本当にありがとうございました。
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